注目の強豪ソフトはこれだ!
さて、それでは「将棋電王トーナメント」に出場する注目ソフトを見ていくことにしよう。電王戦公式サイトには参加ソフトと開発者のプロフィールがアップされているので、詳しく知りたい人は公式サイトをご覧いただきたい。なお、今回は事前に性能が統一されたマシンが用意されるため、最近よく見られるようなたくさんのパソコンをつないでハードウェアの性能を上げる、ということはできなくなった。まずは、「第2回 電王戦」に出場したソフトから。「世界コンピュータ将棋選手権」(以下選手権)でも上位にランクインする強豪がそろっている。
ponanza(ポナンザ):後述のBonanzaをリスペクトしての命名。高速化のためにさまざまな手法が施されていることが特徴で、他の強豪ソフトと比較するとじっくりした展開で強みを発揮する棋風。第23回選手権2位。「第2回 将棋電王戦」では佐藤慎一四段と対戦し、史上初の「現役プロ棋士に勝ったソフト」となった。将棋対戦アプリ「将棋ウォーズ」では強敵として、またお助け機能「棋神」として活躍中。開発者の山本一成氏は自身もアマチュア高段の実力を持つ。明るい性格で、コンピュータ将棋界のムードメーカー的役割を担っている。今回は「Blunder(ブランダー)」の開発者である下山晃氏とタッグを組んでの挑戦。山本氏曰く、「ponanzaのバグをたくさん発見してもらいました」とのこと。
習甦(しゅうそ):名前には「羽生善治三冠から白星を積み上げたい」という思いが込められている。駒の利きを重視した評価関数を持ち、安定感だけでなく、決めに出たときの切れ味にも定評がある。目標は人間を超える大局観を得ること。第20回選手権2位、第21回3位。「第2回 電王戦」では阿部光瑠四段と対戦、プロの受けの強さの前に敗れた。開発者は竹内章氏。憂いを帯びた表情が印象的。電王戦では和服姿で対局に臨み、凛々しい姿が話題になった。
「103(いちまるさん)」の愛称で親しまれているツツカナの開発者・一丸貴則氏。「第2回 電王戦」では船江恒平五段と対戦 |
ツツカナ:名前の由来は時計の部品から。どの程度深く読むかについて、プロの棋譜を用いて調整している点が特徴。現代将棋では堅さと遠さを兼ね備えた「穴熊」がもてはやされているが、ツツカナはこれを好まない。第22回選手権3位。選手権への参加は第20回からと経験は浅いが、めきめきと力をつけ頭角を現した。開発者は一丸貴則氏。シャイな性格で人前は少し苦手。ニコニコ動画では「103(いちまるさん)」の愛称で親しまれている。
次は、電王戦出場経験こそないものの、今年の選手権で優勝したBonanzaだ。
Bonanza(ボナンザ):探索、評価関数の両面でコンピュータ将棋界に革命をもたらした。特にプロの棋譜を用いて評価関数を調整する手法は「ボナンザメソッド」と呼ばれ、今日のコンピュータ将棋におけるスタンダードとなっている。当初は過激な攻めで知られたが、現在はバランスのとれた棋風。2006年、第16回選手権に初参加で優勝。非力なノートパソコンでの優勝は大きなインパクトを与えた。2007年には渡辺明竜王と対局、敗れたものの好勝負を演じその実力を知らしめる。選手権はその後第18回3位、第21回2位、第23回優勝。開発者は保木邦仁氏。「保木スマイル」とピースサインがトレードマーク
今回は、「第2回 電王戦」に出場した「GPS将棋」と「Puella α」、選手権優勝4回の実績を持つ「激指(げきさし)」が出場しない。優勝候補最有力は以上の4ソフトに絞られたと言っていいだろう。残る1枠を争うのは、過去の選手権の実績から考えると「YSS」、「Apery(エイプリー)」、「Selene(セレーネ)」あたりになると予想する。
一発勝負の怖さ、そして電王戦へ
最後に、トーナメントの戦いのポイントをponanza開発者の山本氏に聞いてみた。今回は最初に予選リーグがあり、成績上位のソフトはトーナメントの各山に離れてのエントリーとなる。強豪ソフトが早い段階で潰し合わない仕組みになっている分、実力通りの結果になるのではないかと予想をぶつけた。
すると「トーナメントは一発勝負なのでわからない面があります」と山本氏。強豪ソフトとやや力の落ちるソフトが当たった場合、強豪ソフトの勝率は7~8割ほど。つまり2~3割は敗れる可能性があり、「番狂わせ」もあり得る、というわけだ。
冒頭にも書いたとおり、今回のトーナメントは「第3回 電王戦」の出場権を懸けた戦いになるが、入賞したソフトは終了から1週間で対プロ用の調整を完成させる必要がある。統一ハードの使用、調整期間の制限と、コンピュータ側は昨年に比べ厳しい条件で戦いに挑む。それがどのような結果を生むのかはまだわからない。まずはコンピュータ同士の決戦がどうなるのか、その先にある決戦を想像しつつ楽しむことにしよう。