7~9月期に放送された夏ドラマは、『半沢直樹』の最終回が42.2%の今世紀最高視聴率を記録したほか、『DOCTORS2』、『Woman』など、人気と質を兼ね備えた力作が続出。『あまちゃん』と『ガリレオ』らが火をつけたドラマブームを大きくけん引した。
例年以上に注目が集まる秋ドラマも、話題性と視聴率の両取りを狙う意欲作がラインナップ。国民的ドラマとなった『相棒』を筆頭に、前シリーズが好評だった『リーガルハイ』『ドクターX』『都市伝説の女』、キャスティングが話題性十分の『安堂ロイド』『東京バンドワゴン』など、ドラマ好きでなくても気になる作品がそろった。
今回もドラマ評論家の木村隆志が、全作品の初回放送をウォッチ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていきます。
今クールの主な傾向は、[1]新旧視聴率男バトル [2]金曜20時に新ドラマ2枠 [3]テレビ朝日の割り切り戦略 [4]異色の職業モノ [5]本格志向の映像美 [6]ジャニーズ主演そろい踏み の6つ。
傾向[1] 新旧視聴率男バトル
記録的ヒットとなった『半沢直樹』で主演を務めた堺雅人。一躍、"新・視聴率男"として注目を集める存在となったが、今回は評価を高めるきっかけとなった『リーガルハイ』の続編に挑む。 一方、『半沢直樹』の後番組『安堂ロイド』で主演を務めるのは、"元祖・視聴率男"木村拓哉。「天才科学者とアンドロイドの1人2役をどう演じ分けるか?」以上に、視聴率を比較されることへのプレッシャーは大きい。
「20%は当たり前。30%超え」を求められる2人だが、かつて『エンジン』『南極大陸』でライバル関係を演じていた。「振り幅をアピールする堺」と「カッコよさで押し切る木村」、年末にどちらが称賛されているのか。
傾向[2] 金曜20時に新ドラマ2枠
金曜20時にドラマ枠が2局で新設されたのは、ドラマ業界の明るいニュース。奇しくもフジテレビとテレビ東京が同時期にスタートさせることになった。フジテレビの『家族の裏事情』は、家族の崩壊と再生を描いたホームドラマ。かつて観月ありさや内田有紀が羽ばたいた枠だが、今回はベテラン女優の財前直見が主演を務める。テレビ東京の『刑事吉永誠一 涙の事件簿』は、2時間ドラマの人気シリーズであり、「絶対負けられない」という意気込みがヒシヒシ。どちらも「中高年層の女性狙い」という意図が明確な作品だけに、痛み分けの予感が。
傾向[3] テレビ朝日の割り切り戦略
夏ドラマは、全体の約半数が続編モノだったが、今回はわずか2割程度。ただ、5本中4本がテレビ朝日の作品であり、前クールに続いて今クールも「全て続編モノ」という割り切った編成を見せている。「『半沢直樹』のような大ヒットを狙うのではなく、『相棒』のような安定したヒット作品を量産しよう」という姿勢は、海外ドラマの考え方そのもの。 「刑事ドラマならテレビ朝日が一番」という印象を植え付け、医療モノの『ドクターX』も勧善懲悪型の分かりやすい脚本で、同じ視聴層をガッチリ確保しようという目論見か。いずれも高視聴率必至で、独自路線は成功しそうだ。
傾向[4] 異色の職業ドラマ
職業ドラマが多いのは、ここ十数年来の傾向だが、今クールは異色作がそろった。『ミス・パイロット』の女性パイロット、『よろず占い処 陰陽屋へようこそ』の陰陽師、『ダンダリン』の労働基準監督官、『東京バンドワゴン』の古本屋&カフェなど、目先を変えようとする意図が伝わってくる。しかし、「設定や描写などのリアリティを追求するだけでは、視聴者の心をつかめない」ことは『半沢直樹』が実証済み。「そこにどんな人間ドラマを絡めて、エンターテインメントにするのか?」監督たちの手腕にかかっている。
傾向[5] 本格志向の映像美
最も映像に力を入れているのは、『海の上の診療所』『ミス・パイロット』。『海の家の診療所』は『Dr.コトー診療所』のスタッフが手がける島々や海の絶景、『ミス・パイロット』は全日空の全面協力による航空機のスケール感が楽しめる。 映像へのこだわりでは、『安堂ロイド』と『クロコーチ』も負けていない。CGを実験的に多用した『安堂ロイド』、昭和の古い映像をオーバーラップさせてダークで統一した『クロコーチ』も、強烈なインパクトを放っている。
傾向[6] ジャニーズ主演そろい踏み
『安堂ロイド』の木村拓哉、『独身貴族』の草なぎ剛、『クロコーチ』の長瀬智也、『東京バンドワゴン』の亀梨和也、『よろず占い処陰陽屋へようこそ』の錦戸亮と5人が主演を務める。さらに脇役でも、知念侑季、田口淳之介、風間俊介が出演するなど、ジャニーズ絡みの作品は、全体の約4割に。亀梨を除けば変化球キャラばかりだが、「演技力重視」の時流に乗っていけるのか、注目したい。近年これといったヒット作に恵まれていないジャニーズサイドとしては、一発あてておきたいところだろう。
これらの傾向を踏まえたオススメは、極悪vs巨悪の新鮮さと責めまくった演出が際立つ『クロコーチ』、堺雅人のハイテンションと古沢良太脚本で文句なしの『リーガルハイ』、型破り主人公+勧善懲悪というヒット法則にバシッとはまる『ドクターX』。さらに、王道のヒロイン成長モノに航空業界のスケール感を掛け合わせた『ミス・パイロット』、椎名桔平の静かな熱演が胸に迫る『刑事のまなざし』、ワイルド俳優たちが社会派サスペンスに挑む『ハニー・トラップ』も十分楽しめそう。
一方、裏オススメは、ツッコミどころの多さ以前に見方が分からない『安堂ロイド』、キャラもセリフも使い古し感の強い『独身貴族』、もはや満腹感の粋を超えた入れ替わりモノの『夫のカノジョ』。いずれも初回放送では、いずれも制作サイドのひとりよがりなコンセプトが目立った。脚本・演出の力で尻上がりの展開に期待したい。
【おすすめベスト3】
No.1 クロコーチ
No.2 リーガルハイ
No.3 ドクターX
【おすすめワースト3】
No.1 安堂ロイド
No.2 独身貴族
No.3 夫のカノジョ
次項では2013年秋ドラマの全作品の寸評&採点を一挙披露!