Appleの発言に対応するMicrosoft広報担当役員
10月23日(現地時間)、Microsoftのコミュニケーション担当コーポレートバイスプレジデントであるFrank X. Shaw(フランク・X・ショー)氏は、「Apples and oranges」という奇妙なタイトルを付けた記事を「The Official Microsoft Blog」に寄稿した。同タイトルは、性質が全く異なるため比較できないものや、統一性のないもの並べる際に用いる比喩である。内容を読み進めていくと、前日の22日(現地時間)にAppleがリリースしたiPadおよび、iWorkなどの無料化を揶揄(やゆ)するものだった。
これはAppleのSpecial Event October 2013で、同社CEOのTim Cook(ティム・クック)氏が「ライバル企業はPCをタブレットに、タブレットをPCにしようと試みているが、混乱しているようだ」と述べたことに起因している。発言がSurfaceシリーズを指しているのは明らかであり、Microsoftの役員はもちろん日本マイクロソフトの関係者も、ことあるごとに"PCとタブレットを両立する"というコンセプトを繰り返し述べてきた(図07)。
このCook氏の発言に対してShaw氏は、「Appleのイベントはクパチーノを超えて、"現実歪曲フィールド(RDF)"が生成されたように見える」と反論している。あまり聞き慣れない表現だが、RDFとは"不可能だと思っていることを巧みな話術で実現できると納得させてしまう"という意味で、故Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏のプレゼンテーションスタイルを褒める際に用いる表現だ。クパチーノはカリフォルニア州の1都市で、Apple本社の所在地である。つまりShaw氏はCook氏の迷走発言に対し、相変わらずプレゼンテーションは空想的なものだ、と互いにジャブを撃ち合っているのである。
もう少しShaw氏の発言を追いかけてみよう。同記事では「我々はSurfaceラインを立ち上げて以来、一貫して手頃な価格帯と維持し、生産性とエンターテイメントをミックスした環境を送り出していることを確認している。素晴らしい作業環境を提供するために必要なのは以下の3つだ」と述べている。
1つめは「Officeスイートのようなデファクトスタンダードとなる製品」、2つめは「素早くそして正確に入力できるキーボード/トラックパッド」、そして3つめは「アプリケーションとドキュメントを併用し、比較や分析などを経た作成能力」と列挙した。Shaw氏は暗に"iWorksの無料化"を否定し、キーボードレスのタブレットではなく、2-in-1デバイスのようなものをユーザーは求めている、と述べているのだ。
さらに「(iWorkの無料化は)驚くべきことでもなければ、さほど重要なことでもない」と前置きし、「正確な入力方法もなければ、マルチタスクも実現していないタブレット環境は(仕事に)使えない」と一刀両断にしている。筆者はiWorkを使っていないため、Shaw氏の発言が正確なのか判断できないが、確かにBluetoothキーボードなどを追加しなければならない点を踏まえると、iPadで仕事をする気は起きない。ただし、公平を期するために述べればSurfaceシリーズもキーボード(Touch Coverなど)は別売りだ。
奇しくも第5世代となるiPad「iPad Air」の発表は10月22日(現地時間)であり、Surface 2/Surface Pro 2の発売日と同じである。そのような関係もありつつ、Shaw氏はCock氏の発言に反論したのだろう。タブレット市場で先行するiPadがビジネスに利用できるか否かは判断できないが、豊富なアプリケーションとサードパーティメーカーが発売する多数のアクセサリーを踏まえると、ビジネスマシンとして利用できそうな気がする。
その一方でSurfaceシリーズはProモデルであれば、Windows OS(オペレーティングシステム)をそのままタブレット化したデバイスのため、普段から同OSを利用中のユーザーであれば、ほぼ変わらない作業環境を簡単に再構築できるのは魅力的だ。ただし、後塵(こうじん)を拝するSurfaceの立場を踏まえるとShaw氏の発言は"強がり"にしか見えないが、機能的な差はさほど存在しないのは事実である(もしくはベクトルが異なる)。
ベンダー同士はタブレット市場を死守もしくは拡大するために新製品の投入だけでなく、さまざまな手段でアプローチしなければならない。10年、いや5年後のタブレット市場がどのように変化しているのだろうか。興味を持ってご報告していきたい。
阿久津良和(Cactus)