ビールやワインといった酒類をはじめ、清涼飲料水、医薬品、健康食品などの分野で国内屈指の存在感を示すキリングループ。その一員であるキリンビジネスエキスパートは、同グループ共通の間接業務の集約化・標準化を推進し、グループ間接業務における適正品質のサービスの提供を使命とするシェアードサービス会社だ。同社では、会計と人事系2つの基幹系システムのグループ共通化を進めるにあたり、ユーザー教育、サポートデスク、マニュアル作成などを株式会社エル・ティー・エスに委託することで、スムーズな導入を実現した。2つの事例を通して、システム導入プロジェクトにおける現場への教育展開のあり方を探りたい。

なぜ、わずか1週間でサポートデスクを立ち上げることができたのか?

キリンビジネスエキスパート
業務統合推進部 部長 筒井隆史氏

キリンビジネスエキスパートでは、グループでの内部統制の強化を主な狙いとして2009年1月に会計システムを刷新。新システムの当初からの対象となったのは、キリングループの中核事業会社であるキリンビールと、それに続く事業規模を誇る清涼飲料水メーカーのキリンビバレッジだった。異なる会計システムを採用していた両社の業務を標準化することで、会計業務の効率化が期待された。

新会計システムの導入2ヶ月前の時点では、ユーザーからの問い合わせには各部署の担当者が対応する方針で計画を進めていた。ところが、システムの稼働開始時期が近づくにつれて、業務切替対応の作業が増加したことから、現場からは通常業務の繁忙期と重なることへの不安の声が寄せられるようになった。そのためキリンビジネスエキスパートでは、稼働開始まで1ヶ月を切った時期に、急遽サポートデスクの設置を決定したのである。

とはいえ、残された時間はわずかしかなく、人的リソースや体制上の制約から見ても自社で独自にサポートデスクを構築するのは厳しい状況だった。そこで、受け入れ体制が不十分な中であっても短期間で対応可能なアウトソース先が求められたのである。そんな切羽詰まった状況にあった同社が、信頼を置くコンサルタントから紹介されたのが、エル・ティー・エスだった。

キリンビジネスエキスパート 業務統合推進部 部長 筒井隆史氏は、当時の様子を次のように振り返る。

「新会計システムのコード体系をはじめ各種資料をエル・ティー・エス側に渡して、後はほぼ“お任せ”という状況でした。エル・ティー・エスの初回提案からシステム稼働まで2週間、正式な参画後はわずか1週間でサポートデスクの立ち上げを実現したスピードにも驚きましたが、ユーザーからの質問をどのように蓄積して統計を取り、さらにそれをどうレポートするのかなど、豊富なノウハウにも大いに感心しましたね」

エル・ティー・エスでは、実質1週間という短期間でサポートデスクを立ち上げるために、社内のテンプレートや過去事例を徹底的に活用。 ・運用ルール・体制整備 ・問合せ対応手順定義 ・問合せ対応用資料整備 ・問合せ状況報告・管理ルール整備 といったステップを踏みながら課題を解決していったのである。  また、サポートデスク要員用の対応資料の収集と要員への教育は同時並行で進められ、業務とシステムの理解を深めることにつなげることができた。

前回の教訓から、システム稼動前に教育施策を展開

こうして2009年1月の新会計システムの稼働開始後、エル・ティー・エスのスタッフが同年11月までキリンビジネスエキスパート社内に常駐し、サポートデスクの運用をマニュアルづくりと並行して実施した。2013年1月には、グループ企業の1つであるワインメーカーのメルシャンも新会計システムへと経理業務の移行を図ったが、前回の取り組みを教訓として、企画段階からエル・ティー・エスに加わってもらった。移行前の2012年9月にマニュアル作りを開始し、「エンドユーザーがテストする段階から問い合わせが来るだろうから、早めに問合せ窓口が必要」とのアドバイスを受けて、同年11月にはサポートデスクを立ち上げている。

「エル・ティー・エスのスタッフが常駐しているので、問合せを受けた時に素早くレスポンスすることができます。サポートデスクには、実働部隊との連携が必要ですから、常駐してもらえることのメリットはとても大きいですね」(筒井氏)

動画マニュアルで研修の負荷を大幅に低減

新会計システムのサポートデスクと合わせて、操作マニュアルの整備と更新手順書・テンプレートの作成もエル・ティー・エスが支援した。

これらは当初、他の企業が作成していたものを使用していたが、バージョン管理の体制がしっかりできていないのに加え、特殊なフォーマットを採用していたため使い勝手が悪く、経理担当者が頻繁に更新をする上で大きな課題となっていた。加えて、システムをグループ会社へ展開する際には、エンドユーザーを対象にした説明会を行う必要があったが、国内の主要拠点を回るには複数チームの編成が必要となり、メンバーの確保が困難な状況だった。

そこで、同社はエル・ティー・エスの支援のもと、システム操作の説明時に使用できる操作説明用の動画マニュアルを作成するとともに、既存のテンプレートを修正し、Wordの特別な知識がなくてもボタン操作だけで簡単に使用できるものに変更。動画マニュアルを活用した説明会の実施により、講師となるメンバーに負荷が集中するのを緩和した。さらに、エル・ティー・エスからの提案により、A3を2つ折りにしたシンプルで分かりやすい「クイックガイド」も作成したのである。

こうした試みもあり、新会計システムはグループ会社のユーザーの間にすんなりと浸透していった。いつでも必要な時に動画マニュアルを見ることができ、クイックガイドと合わせれば、ユーザーだけで大方の疑問を解決することができるようになったのだ。

「おかげで運用の負荷を大幅に低減することができました。経理担当者が本業に集中できることは当社の競争力向上にもつながります」と筒井氏は評価する。

操作マニュアルの作成フロー