今や誰もが認める国民的漫画となった「ONE PIECE」。毎週ジャンプで読むのを楽しみにしていたり、コミックを集めていたり、TVアニメを欠かさずチェックしていたりするファンは多いだろう。
しかし、そんなONE PIECEファンでも意外と見落としがちなのが劇場版アニメである。何しろ、テレビと違って劇場まで足を運ばなければならない上に、上映期間が限られている。DVDやブルーレイで見てみようと思っても、過去作品が膨大だからどこから手を付ければいいかわからないときたもんだ。
それなら、ここはひとつ、視点を変えてみるのはどうだろう。劇場版ONE PIECEを陰で支える「裏方」に注目してみるのだ。
実は放送作家の鈴木おさむ氏が脚本を担当した「ONE PIECE FILM Z ワンピース フィルム ゼット」(C)尾田栄一郎/2012「ワンピース」製作委員会 |
実は劇場版ONE PIECEには、映画業界やテレビ業界の意外な著名人がスタッフとして関わっているケースが多い。
「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」監督が実はあの有名な…
たとえば2005年3月に公開された「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」は、「時をかける少女」や「サマーウォーズ」、「おおかみこどもの雨と雪」などの作品で知られ、今や日本を代表するアニメ監督となった細田守が監督を務めている。しかも彼にとって初の長編アニメーション映画監督作品だ。これ、意外と知らない人が多いんじゃないだろうか。
その知識を持って「オマツリ男爵と秘密の島」を見ると、実に"細田守テイスト"あふれる作品であることがわかる。キャラクターの動きや、空を見上げたところをアオリで捉えた絵、色使い。あらゆる場面で、現在の細田守の映画を彷彿とさせる演出が取り入れられているのだ。
可能ならば本作を見た後で他の細田作品を見てみるか、あるいは逆に細田作品を見た上で本作を見てみてほしい。一人の監督がまったく違う作品を作るとこうなるのか、ということがわかって、アニメの舞台裏をより楽しめるはずだ。
ストーリーについても、他のONE PIECEの映画や原作とは一線を画した雰囲気を醸し出している。「オマツリ男爵と秘密の島」なんて明るい感じのタイトルがつけられているものの、実際にはかなり暗く重い物語が展開されるのだ。
物語の舞台となるのは「オマツリ島」。パラダイスだと聞かされて島を訪れた麦わらの一味だったが、到着早々に島の当主であるオマツリ男爵から「地獄の試練」を仕掛けられる。最初こそ楽しみながら試練をクリアしていたルフィたちだが、次第に仲間たちの間に不協和音が流れ始める。
強い絆で結ばれているはずの麦わらの一味が仲間割れするという衝撃の展開や、中盤から後半にかけてのホラーテイストなストーリー展開に、原作派の人は「本当にこれがONE PIECE?」なんて驚くかもしれない。しかし、これこそが劇場版ならではの醍醐味だ。TVシリーズでは絶対にできないオリジナルストーリーと、監督の作家性が表れる独自の演出を存分に楽しんでほしい。
「ONE PIECE FILM Z」脚本がバラエティでよく見かけるあの人
続いて紹介するのは、「ONE PIECE FILM Z」だ。2012年12月に公開されたばかりなので、記憶に新しい人も多いだろう。原作者・尾田栄一郎が総合プロデューサーを務めたことでも話題になった本作だが、実は脚本を放送作家の鈴木おさむが担当しているのだ。
鈴木おさむといえば森三中の大島美幸の夫として有名だが、実は脚本家としても映画やドラマなどで多数のヒット作を持つ超売れっ子。「ONE PIECE」ファンであることを公言している彼がどんな脚本を書くのか、ぜひそのストーリーに注目して見てほしい。
そんな本作の舞台となるのは、「新世界」のとある島。古代兵器に匹敵するとされる海軍の切り札「ダイナ岩」が元海軍大将のゼットに奪われ、新世界が滅亡の危機にさらされてしまう。ゼットと海軍、そして麦わらの一味――新世界の命運をかけた三つ巴の戦いの火蓋が切って落とされる……。
ストーリーのポイントは、敵対する海軍とゼットに加え、麦わらの一味がそのどちらにも属さない勢力として参戦しているところだ。いわば三国志状態であり、さらに"青雉"が水面下で動き始める。この複雑な対立構造が、物語を奥深いものにしており、原作派を満足させるだけの完成度となっている。
これだけの物語をきっちりとまとめあげる力量は、さすが売れっ子放送作家・脚本家の鈴木おさむといったところか。変にお遊び要素を入れず、あくまで「ONE PIECE」として魅力的なストーリーに終始しているところも好感が持てるところだ。ONE PIECEらしい激しいバトルは劇場版ならではのクオリティで、これでもかと言わんばかりに動きまくり! ラストには熱いカタルシスと、爽やかな感動が待っている。
鈴木おさむを、たまにバラエティに出ている森三中・大島の夫、みたいに認識している人にこそ、本作を見てもらいたいものだ。(次ページに続く)