Quarkのターゲットはこれから?
さて、今回のQuark X1000であるがこのClaremontそのものではない。まずClaremontは、SoCではなくただのCPUである。一方Quark X1000はSoCとしており、この時点で話が異なる。具体的にいえば、Quark X1000はClaremontコアにチップセット(それもMCH/GMCHではなく、Northbridge/Southbridge)を統合したものである。
ClaremontそのものはPentiumだから、対応するチップセットは430TXとか430HXとか、その世代のものになるだろう。したがって、I/OもPCIとかISAということになる。Photo06でMiniPCIばっかり出ているのは、要するにMiniPCIしかつなげられないということだろう。
またチップセットそのものにも若干手が入っているようだ。Photo06でCPUのやや上にDRAMらしきものが2つ搭載されているが、もともと430世代だとFPDRAMとかEDO-DRAMしかサポートされない。さすがにこれはいまでは入手が大変なので、もう少し現実的なもの(DDRあたり?)に切り替えているようだ。なのでメモリコントローラは恐らく更新されている。
動作周波数は不明だが、消費電力はAtomの10分の1ということから200mW程度ということになる。そこから考えると動作周波数は100MHz前後で、電圧も0.5Vより上、0.6~0.7V近辺ではないかと想像できる。ここまで電圧が高いと、NVT動作をしているとはちといいがたい。
今回発表されたQuark X1000は「取りあえず作ってみました」的なものに見える。開発ボードにさまざまな周辺回路をぶら下げているあたり、まだ「この用途に向けて最適化したSoCです」というよりも「こんなSoCでもあんなSoCでも作れますが、まだ用途を絞り込めてないために構成も決まりません。なのでこの開発ボードでターゲットを決めてもらえませんか」的な感じを強く受ける。
「用途が決まらない」という感じはBorkar氏の話からも感じられた。基調講演ではWellness Deviceのデモが見せられたが、通常Wellness DeviceにはOSを乗せたりしない。最近のMCUはNetwork Stackをミドルウェアで提供しており、TCP/IPやBluetooth/Zigbee/CANあたりは普通に使える。なかにはNetwork StackをROMの形で提供しており、Flash Memory領域を食わない様に配慮しているものもある。
要するにConnectivityを確保するのに別にOSは要らない(か、Realtime OSで十分)なのだが、Borkar氏の話を聞く限りIntelは普通のOSを乗せることを相変わらず必要と考えているようだ。まずこのあたりで大きなミスマッチが感じられる。
Quark X1000はPathfinder的な用途に
次にQuark X1000の構成がまた不思議というか、明らかに汎用CPU系である。製造プロセスは断言できないが、もともとのClaremontが32nmの試作であり、またNorthbridge/Southbridgeを作りこむには、22nmのSoCよりも32nmの方が楽(現行のIntelのチップセットは全部32nmでの製造)ということを考えると、恐らく32nmでの製造となる。
ところが、Intelは32nmプロセスでEmbedded Flashの技術を提供していない。というか業界を見渡しても、通常Embedded Flashは45nmとか55nmが最先端で、通常は90nm~130nmプロセスを使う。したがって、Quark X1000は内蔵Flashからのブートは不可能で、外部にブート用のFlash Memoryを必要とすることになるのだが、さすがにIoTのEnd Device向けにこれは考えにくい。おまけにDRAMが外付けで必要だから、CPUそのものは小型であっても、実際には結構な部品点数になる。
Photo07でKrzanich氏が左手に持ったリストバンド風の試作デバイスを見ても、それは明らかである。いくらなんでもこれはありえないだろう。ただその一方で、動作周波数は100MHz前後と見られる。これは100MHzオーバーで動作するCortex-MベースのMCUと同程度の領域に位置付けられるものとなるだろう。
つまり、必要とする部品が多い割にパフォーマンスが低いという状況で、明らかに性能/コストのバランスが悪すぎる。200mWという消費電力もx86としては驚異的に低いが、MCUと勝負することを考えると明らかに大きすぎる。
おそらくQuark X1000は具体的な最終製品向けのものではなく、新しいファミリー製品を開拓するための、Pathfinder的な用途に使われるものになるだろう。いまIntelはCPUコアそのものを作り直すと共に、どんなSoCを作るべきかのリサーチも行っており、このリサーチのために取りあえず何か動くものが必要、ということではないかと思う。
そして次世代製品はAtomコアをベースとしたものになるのではなかろうか? ただそれもSilvermontそのものではなく、例えばSilvermontをベースにIn-OrderでSingle Issueのパイプラインとするといった、もっと省サイズに振ったものになるだろう、大体IoTのEnd Deviceが2GHzで動く必要は全然無いわけで、数100MHzで動作すれば十分ということであれば、当然パイプラインの分割構成から変わってくるからだ。
それにあわせて、想定するアプリケーションに応じてメモリの構成やどんな周辺回路を突っ込むべきかが決まってくる。例えばWellness機器でいえば、簡単なNetwork Stackが動けば十分で、その代わりに心拍数などを取り込むためのADCとか、振動でお知らせするためのモーターをつなぐためのPWMとかLED/LCDドライバとか、そういったものが必要になる。また、できるならWireless DeviceのMACやUSB Chargingに対応したUSB 2.0 MACとPHYが搭載されるのが望ましい。
こうした要望にあわせてSoCの構成や対応するOS/Libraryを用意するという形になるわけで、こうした遠大な作業に踏み出すための第一歩としてシリコンを作った、というあたりであろう。
全体としてみると、Quarkのターゲットになるのは、台湾DM&PのVortex86MXあたりではないかと思われる。具体的にはPC104とかPCI-104のボードにはQuarkはなかなか良く使える気がする。もっとも、このマーケットに本当にIntelがAddressする気があるのか、が次の問題である。
Quark発表の狙いはどこに
何でIntelがこんな分野に手を出すかといえば、従来型PCのマーケットは成長が頭打ちになっている感は非常に強く、当然株主からは「何で急速に伸びるマーケットをやらないんだ?」と言われる事になる。これに対応すべく「いややってます」という、要するに言い訳のためである。
初日の基調講演の後の質疑応答で、どんな分野にAddressするのかと問われてKrzanich氏は「伸びるところ全部」と答えて笑いを取ったのだが、このためにはIoT向けのデバイスが無いと話にならないからだ。が、問題はデバイスそのものではなくIoT向けの市場に取り組む体制がIntelにあるかどうか、である。
とにかくこの手のデバイスは徹底的に薄利多売である。何せチップの値段がせいぜい2ドルとか3ドルである。それもMCUみたいにFlash MemoryとSRAM、周辺機器まで全部入ったものでその程度の値段である。もし外付けチップが必要であればその分プロセッサの値段を下げないと勝負にならない。
もし1ドルで販売したとして、これを100万個売ってもせいぜい1億円の売り上げにしかならない。これなら20万位のXeonを500個売るほうが楽だろう。しかも売り上げがたつのはずっとあと(Intelが製品を出してから、実際にメーカーがそれを購入して製品を出荷するまで1~2年かかる)し、いきなり大量に出るケースは(iPhoneみたいな若干の例外を除くと)あんまりない。
Intelはこれまで、Embedded向けの取り組みに対して同じ失敗を何度も繰り返してきた。今回も単にDeviceだけは目新しいものの体制そのものは旧態依然とした感じしか受けない。それだけにQuarkに"Family"と銘打ったものの、果たしてこの先も続くのか。
もっといえばLCOSみたいに「やっぱやめ」とかになりそうな雰囲気が非常に漂っているだけに、この先の動向を注意しながら追いかけたいと思う。