問題はLTE部分のほうで、前述のようにFDD-LTEのサポート帯域を広げられるか、そしてChina Mobile向けではない端末においてもTDD-LTEサポートが行われるのかで、各社の動向に大きな影響を及ぼすことになる。日本においては、AXGPの名称でTDD-LTEベースのネットワークが展開され、主にソフトバンクによってサービスが提供されている。またソフトバンク子会社になった米Sprintが、自身の完全子会社である米Clearwireの周波数帯域(2.5GHz)でTDD-LTEベースのネットワーク構築を始めている。もし新型iPhoneがTDD-LTEをサポートする場合、ソフトバンクがこれらネットワークに対して大々的に端末提供を拡大できるようになる。このほか、TDD-LTEはインドのBharti Airtelをはじめ、世界各所でネットワークを拡大させており、契約数ベースではおそらくFDD-LTEを抜いて世界シェアトップになるとみられる。それだけに、iPhone側の対応が非常に大きな意味を持つといえる。

さて、世間ではNTTドコモがiPhoneの取り扱いを開始するという噂で持ちきりだが、この話題は実際にキャリア関係者側からの内部情報として出てきたものなため、ほぼ確定とみていいだろう。前出China Mobileと合わせ、日本と中国という2つの市場の巨大キャリアをパートナーに取り込めたことは、不安材料から株価が乱高下しているAppleにとって大きな意味を持つ。潜在需要の取り込みという点では重要なものの、実際のところはNTTドコモのiPhone取り扱い開始で大きくユーザー数を伸ばすことは難しいとみられる。理由はiPhone導入を考えるユーザーの多くはすでに他キャリアで端末を入手しており、潜在需要も限定的だと考えられるからだ。MNPでの移行先の選択肢が増えた点で、多少キャリア間での流動性が高まり、NTTドコモからの一方的顧客流出に一定の歯止めがかかるはずだ。

興味深いのは、これまで「非常に厳しい」と言い続けてきた"コミッション"と呼ばれる契約条件をNTTドコモがこのタイミングでなぜ呑んだのかという点だ。以前のレポートでも紹介したように、コミッションの条件は一様ではないといわれている。例えば米国で最初の独占販売キャリアだったAT&Tに比べ、後から契約したVerizon Wirelessは販売ノルマの点で非常に不利になっている。そして、契約満了までにVerizon Wirelessがノルマを達成するのは非常に厳しい状況にあるといわれている。コミッションはキャリア規模によっても変化するため、最後発で国内約半数のシェアを持つNTTドコモに課せられる可能性のあるコミッションの水準は推して知るべしだろう。

だがNTTドコモはこの条件を受け入れた。しかも諸条件で過去数年にわたってAppleと折り合いがつかなかったChina Mobileも同時期にiPhoneの取り扱いを開始するという。推測ではあるが、筆者はこの背景に「Apple側が何らかの理由で契約条件を緩めた」可能性があると考えている。依然として厳しい水準ではあるものの、少なくとも「達成不可能」という水準ではないとみる。販売機会の拡大という株主らのプレッシャーに対し、Apple側が応えたのではないのかという予測だ。一方で、これが事実だとすれば、厳しいノルマをこなしつつ販売を続けてきた既存キャリアにとっては納得できない事態だろう。その場合、既存キャリアについても何らかの条件緩和が行われる可能性がある。その結果、Apple端末を以前ほど熱心に売らずとも良くなることはないだろうか? 前述のTDD-LTE対応の件と合わせ、一連の変化の中でソフトバンクがどのような動きを見せるのか、筆者は一番注目している。いろいろな意味で、Appleと携帯キャリアの変革期が到来しつつあると思われるからだ。

9月10日のスペシャルイベントでの発表内容もさることながら、その後の変化についてもよく注視していてほしい。きっと面白い動きが期待できるはずだ。