トップバッターを務めたのはDJシーザー。元バンドマンで、現在はアニソン系のDJとしても活躍するアーティスト。まだあたたまりきっていない会場を盛り上げる重要な役目を担うにふさわしい実力派DJである。
楽曲も「ブラック★ロックシューター」から始まり、「カゲロウデイズ」や「ワールズエンド・ダンスホール」「脳漿炸裂ガール」「千本桜」などキャッチーなものをチョイス。ニコニコ動画ユーザーなら誰もが知る定番のボカロ曲からスタートすることで、会場もニコ生のコメントも一気に盛り上がった。ちょっと意外だったのは、「RAINBOW GIRL」を混ぜてきたこと。この曲、本来は2chから誕生しニコニコ動画に転載された楽曲で、作曲・ボーカルは「となさ」が務めている。初音ミクのカバー動画があるとはいえ、ここでそれをもってくるか! という意外性とDJシーザーのセンスを感じる選曲だった。
また、ここでは同じくボカロPであり「ダブルラリアット」などのヒット曲を持つ「アゴアニキ」がベーシストとして参戦。さらにギタリストの「町屋」や、バイオリニストの石川綾子まで出演して大いに会場を賑わせていた。特に石川綾子はつい先日、「初音ミクの消失」でランキング上位に入り、多くのニコ動ユーザーを驚かせたばかり。世界で活躍するトッププロのバイオリンとボカニコナイト。この組み合わせが実現できるのはニコニコ動画のイベントならではだ。
2人目に登場したのは4年前にメジャーデビューを果たし多方面で活躍する「baker」。DJシーザーとはがらりと雰囲気を変えて、「恋は戦争」や「般若心経ポップ」「Just Be Friends」などを絶妙なアレンジとつなぎで魅せた。曲自体は定番ものが多いが、リミックスでここまで変わるのかと驚かされるほど原曲と印象が違う。これぞボカニコナイトの真骨頂だ。
もうお気づきだろうが、ボカニコナイトは別に自分が作曲した曲だけを流すイベントではない。また、DJはイベントの主役でもあるから、観客を煽ったりMCで笑わせたりと盛り上げる必要もあり、パフォーマーとしての力量も求められるのだ。
その点で見事だったのが、3人目の「DJ'TEKINA//SOMETHING」と4人目の「八王子P」である。「DJ'TEKINA//SOMETHING」は普段「ゆよゆっぺ」という名前で活動するボカロP。現在はメジャーデビューを果たし、楽曲提供や海外イベントへの出演など勢力に活動を続けている。同じくメジャーデビューを果たしている八王子Pとはよき仲間・ライバルであり、この日は八王子Pのラストに合作曲を披露して歓声を浴びていた。
そんな二人に負けない大歓声を浴びて登場したのが、「kz(livetune)」だ。Google Chromeと初音ミクのコラボレーションで話題になったCM曲「Tell Your World」の作曲者といえば通りがいいだろうか。初音ミク黎明期から活動する古参ボカロPの一人で、「Packaged」の完成度には当時驚かされたものだ。
メジャーデビューを果たし、現在はプロの世界で活躍しているkzによるパフォーマンスは、「Tell Your World」から始まり「Tell Your World」で終わるという考えぬかれた構成。「Packaged」のリミックスバージョンや「ファインダー」など、浮遊感あふれるサウンドをホールに響かせて感動を誘った。
ラストには謎のDJ「Voca Nico」がニコニコテレビちゃんの着ぐるみで登場し、「十面相」や「結ンデ開イテ羅刹ト骸」といったアップテンポな人気曲を披露。その安定感から「中の人は間違いなくプロだろう」といったコメントも散見されたが、果たして本当のところはどうなのか。……いやいや、中の人なんていませんよ?
あと、毎回思うのだけど、ニコニコ系のライブイベントにおける「こちら、幸福安心委員会です。」の盛り上がり方はすさまじい。知らない人が見たら……と思うとちょっと怖くなるレベルだ。
ということで、本格派DJパフォーマンスあり、スペシャルゲストによる演奏あり、人気踊り手による贅沢な転換あり、初音ミクとマッチョダンサーのポールダンスという謎演出ありと、とにかく盛りだくさんな内容だったボカニコナイト。次のボカニコナイトがどこでどんな形で行われるのかはわからないけど、この夜の盛り上がりを見るに、ボカロカルチャーは今後も熱い盛り上がりを見せてくれそうだ。