パーチ 代表 長尾健作氏

続いて、「3DCGソフト使用者のカラマネ運用」として、パーチ 代表の長尾健作氏による講義が行われた。同氏は、3DCG制作におけるカラマネの目的から導入・設定等について語った。

一般的に、3Dのレンダリング結果とPhotoshopなどのポスト処理(画像/動画編集)ソフトで"色が違うのが当たり前"と認識されているのが現状だ。しかし、カラマネの導入によってその状況が解消すれば、スタッフ間・グループ間・協力会社間など、やりとりの工程が多い3DCG制作において、作業の品質向上・効率化につながる。また、制作にかかわる人々同士のマッチングだけでなく、スマートフォン・タブレットからパチンコ・パチスロのモニターに至るまで、さまざまな表示デバイスを制作段階から再現したいニーズもあり、画面上であらかじめ対象デバイスの表示色を確認できる「デバイスエミュレーション」も注目の機能だという。

カラマネ導入の目的は、仕事の品質向上と効率化

まだカラマネを導入していない現場でも、「リニアワークフロー」であれば知っている人も多いだろう。カメラから入力された画像・映像は、通常"逆ガンマ"がかかった状態になっている。一方で、モニターなどの出力機器はガンマのカーブを持つため、画面上で互いに相殺されることでフラットな見え方(リニア)を実現している。

リニアワークフローを使うことで、3DCGと撮影した映像を自然に合成する

しかし、3DCGソフト内の演算はリニアで行われるため、そのまま書き出した画像ではモニター表示や撮影画像との合成においてカーブが合わず、不自然に見えてしまう。リニアワークフローとはこれを解消するため、3DCGの入出力に適切なガンマや逆ガンマをかける仕組みだ。

3Ds MaxとMayaのリニアワークフローの設定

業種ごとにターゲットとする設定・カラープロファイルをまとめた表

リニアワークフローによりCG内部のガンマの管理は可能だが、全体のカラマネにはより統合的な仕組みが必要だ。これを踏まえ、改めて3Dのレンダリング結果とポスト処理系ソフト、あるいは実物とで色が合わない理由を見直してみる。3DCG(カラマネ非対応)ソフトは生成したデータをそのままモニターに送るため、モニターの設定がsRGBならsRGBで、AdobeRGBならAdobeRGBで表示される。一方、ポスト処理系(カラマネ対応)ソフトは、ソフト内部で指定された色空間に変換してモニターに送るため、AdobeRGBのモニターを使っていてもsRGBに指定された画像はsRGBで表示される。これが、3DCGソフトとポスト処理系とで色の差異が見られる最大の理由だ。

カラマネ対応ソフトでは、ソフト側で指定されたプロファイルがシミュレーションされる

両ソフトでの表示を一致させるためには、カラープロファイルをターゲットに調整可能なモニターをセンサーで正しい値に調整し、その上で画像を開く際に、ソフト上でそれぞれ設定を与えることが必要となる。また、実物との色合わせを行う場合は、それを観察する環境光の整備も必要である。これによって、例えば動画制作に用いた3DCGデータを広告画像にも用いる場合など、3Dデータをソフトをまたがって取り扱う場合でも、同じ色で表示することができるようになるのだ。また、モニターは経年により表示色が変化するので、それを補正するために定期的なキャリブレーション作業が必要となる。

ColorEdgeシリーズは、高精度なハードウェアキャリブレーション機能を搭載している

機材導入後の教育、運用が非常に重要なポイントとなる

これまで、多くの企業へのカラマネ導入をサポートしてきた長尾氏の経験によると、導入成功の鍵は「スタッフ全員に教育するかどうか」だという。導入当初は反発されることもあるが、「カラマネを導入すれば、一貫して正しい色で作業できるようになるので、品質も上がり、効率的に作業できるようになる」と理解されれば、協力する姿勢が生まれ、スタッフが独断で設定を変更してしまうこともなくなるとのこと。設備の設置と設定だけでなく、継続的な運用が非常に重要だ。

クリエイティブの現場では、色味や見え方に関するミスコミュニケーションがあると、修正に必要以上の時間を費やさなくてはならない。また、モニターの個体差による白飛び・黒ツブレや出力バランスの崩れによるトーンジャンプが発生することもエラーの一因となる。どちらにせよ、ミスコミュニケーションの原因がデータなのかモニターなのかが特定できない環境では、成果物の品質が確保できない。長尾氏が率いるパーチは、各種セミナーサポートのほかに、高品質の3DCGデータ制作を請け負っているが、効率よく進められるのは、ColorEdgeを使った正しいカラマネによる無駄な作業の減少=コスト削減ができているためだ。「カラマネは仕事を獲るためのひとつの武器。これがない限り戦えない」と、その重要性を訴えた。