オフライン機能のサポートで利用シーンを拡大
Akmal氏の記事では、SkyDrive.comのオフライン環境に対する対応も言及していた。冒頭で述べたオンラインストレージの利用はインターネット接続環境が欠かせないものの、外出先では必ずしも良質かつ高速なモバイルWi-Fiルーターが利用できる訳ではない。そこでオンラインストレージ市場でも優位に立とうとしているMicrosoftとしては、SkyDrive.comのオフライン対応も必要となるのだ。
既にWindows 8.1プレビューに付属するWindowsストアアプリ版SkyDriveはオフライン機能に対応しており、ファイルを選択してアプリバーを呼び出すと、<オフラインで使う>ボタンが用意されている。ロジック的には任意のファイルを事前ダウンロードし、飛行機内などネットワークを利用できない環境でも、ファイルの閲覧や編集を可能にするというものだ(図06~08)。
エクスプローラーのコンテキストメニューにも同様の機能が加わり、同環境でSkyDriveを開くと同メニューに<オフラインで使用する>という項目が利用可能になる。Windows 8.1プレビューでは、キャッシュ済みファイルに対してオーバーレイアイコンが加わるなどの変化は確認できなかったが、同項目名は<オンラインでのみ使用する>に変更されていた(図09)。
このオフライン機能はネットワーク状態によって動作が異なり、メタデータに反映される仕組みだ。図10は前述したセッションのPowerPointファイルから抜粋したものだが、オンライン環境ではメタデータのプロパティがすべて「True」。従量制ネットワークの場合、SkyDriveのPlaceholderファイルおよびネットワーク上(他のコンピューターに用意した共有フォルダーなど)のファイルは、ユーザーの設定によって動作が変化する仕組み。そしてオフライン時は両ファイルのプロパティが「False」となる。Windowsストアアプリはこの情報を確認し、ファイル参照を行うようにして欲しいと同セッションのスピーカーは説明していた(図10)。
Windows OSは以前からオフラインキャッシュ機能を備えているため、斬新な機能ではないものの、"かゆいところに手が届く"機能がSkyDriveに加わったと述べるのが正しいだろう。また、同氏はモダンUI(ユーザーインターフェース)のコモンダイアログとなる「File Picker(ファイルピッカー)を改良し、Windowsストアアプリからのファイル保存はSkyDrive.comが使われる」と述べた。今後タブレット型コンピューターの様なストレージ容量が少ないデバイスでWindows 8.1を利用することを踏まえれば、こちらも用意されるべくして導入された機能と言える(図11)。
Windows 8.1プレビューでは、ドキュメントの既定保存先としてローカルストレージではなくSkyDriveを選択するスイッチが「PC設定」に用意されているが、この設定を変更してもWindowsストアアプリ、およびデスクトップアプリでの動作変更は確認できなかった。このあたりはRTM(Release To Manufacturing version:製造工程版)版で明らかになればよいので深く言及しないが、Windows 8.1リリース以降はますますSkyDriveの重要性は高まるだろう(図12)。
ここで個人向けオンラインストレージサービスに関して目を向けてみたい。OSと連動する同サービスはAppleのiCloud(アイクラウド)と、GoogleのGoogleドライブが挙げられる。前者は5ギガバイトのストレージ領域を無料で使用可能。MacintoshのOS Xでは、複数のデバイスドキュメントを共有する「Documents in the Cloud」や、各デバイスでSafari(サファリ)で開いているタブを共有するiCloudタブをサポート。これにより、Macintoshだけでなく、iPhoneやiPadといったデバイスとのシームレスなデータ共有に対応している(図13~14)。
一方のGoogleドライブは15ギガバイトのストレージ領域を無料で使用可能。独自のOSとして、LinuxベースのChrome(クロム)OSを開発中だが、現時点では単体提供が行われていないため詳細は不明だ。オープンソース版であるChromium(クロミウム) OSを起動すると、Windows OSのエクスプローラーに相当するファイラーでGoogleドライブとの融合を確認できる。Android用アプリケーションを確認すると、オフライン機能などは既にサポートされていた(図15~16)。
この様に各社が提供するオンラインストレージサービスは一長一短で、必ずしも特定のメーカーが抜きん出ているという訳ではない。そもそも個人向けオンラインストレージ市場の獲得は直接の利益を得るのではなく、利便性をアピールすることで自社OSもしくはデバイスに対する囲い込みが主目的である。今後は便利なオンラインストレージサービスを単独で利用するのではなく、普段から使っているプラットフォームと連動した同サービスを見極め、プラットフォームの移行を考量しなければならないだろう。
阿久津良和(Cactus)