ロゴシーズの体験を終えたあと、山形カシオの社屋にお邪魔して、ロゴシーズの開発にまつわるお話を聞いてきた(山形カシオが利用する実験用プールと、山形カシオの社屋は離れた場所にある)。対応して下さったのは、山形カシオ マリンシステム部 部長の鈴木隆司氏と、山形カシオ マリンシステム部 販売促進チーム リーダーの平信介氏だ。

山形カシオは、腕時計のG-SHOCK(主にプレミアム系モデル)などカシオ製品の生産を手がけているだけでなく、最先端の工場設備や工場運営は日本、ひいては世界でもトップレベル。いわゆる「ものづくり」も同様で、高い技術力と長い歴史を持つ。そうした下地があったからこそ、ロゴシーズのアイデアを形にしていくことも、製品化することもできたと、鈴木氏は語る。

山形カシオ マリンシステム部 部長
鈴木隆司氏

山形カシオ マリンシステム部 販売促進チーム リーダー 平信介氏

ロゴシーズのアイデアが生まれるきっかけとなったのは、当時は小学生だったという鈴木氏の娘さん。ダイビングに興味を持ち、じゃあやってみようとなって初めて潜った海の中で、「どうして娘と話せないのだろう?」との疑問。そこから鈴木氏の脳裏に「水中トランシーバー」が浮かぶ。

鈴木氏が「水中の道具」を全般的に調べてみると、個人で使える「電子機器」というものが意外にない。ともするとマイナス要素だが、それをプラスにとらえるのがカシオならでは。山形カシオの社内でゴーサインが出て、鈴木氏が一人で開発をスタート。約半年後にハードウェアを主に担当する平氏が加わり、二人体制となった。

開発に当たっては、そもそも水中で使える各種デバイスが少ないことに苦労したという。山形カシオではG-SHOCKや携帯電話を製造してきているため、防水と通信にはノウハウがある。しかし、水中では電波が伝わらないので、超音波を使う必要があった(電波と音波/超音波の違いは省略する)。骨伝導、音声を超音波で送信、超音波の受信と音声データの取り出し、アンテナ/マイクの小型化と防水など、まさに試行錯誤の連続。

本当に初期の実験機と(写真左)、その次の実験機(写真右)。マイク部分とスピーカー部分を水中に沈めて、実験を行った

はじめのうちは、音声マイクも超音波アンテナも有線で、本体もかなりの大きさだった。鈴木氏と平氏は何度も何度も海へ行き、ロゴシーズの試作機を海面にぷかぷかと浮かべたり、実際にダイビングして水中で使ったりと(お二人ともダイビングライセンスを取得)、実験を繰り返したという。社内に用意した大きな水槽や、筆者が体験した実験用プールでうまく動作しても、実際の海では不具合続出だったらしい。さらに、「小型、ケーブルレス、スイッチレスには徹底的にこだわった」と語る平氏の言葉にも力がこもる。

数々のトライ&エラーを経て、なんとか形が見えてきたところで、試作機に「龍宮(りゅうぐう)」という名前が付く。「龍宮-I号」では小型化が進んだが、スイッチ類とケーブルが残っている。「龍宮-II号」で一体型(ケーブルレス)となり、「龍宮-III号」で製品版の原型ともなるデザインとなった。「龍宮-IV号」は量産試作機だ。そして「ロゴシーズ(Logosease)」という製品名は、ギリシア語の「logos」(言葉・言語・理性)、英語の「Sea」(海)と「ease」(安心・簡単)を組み合わせたもの。

記念すべき「龍宮-I号」は2011年6月に誕生した

「龍宮-II号」は2011年9月。「龍宮-I号」から3カ月で大きな進化

「龍宮-II号」の背面を特別に公開。電源として、カシオのデジタルカメラ「EXILIM」のバッテリが使われている

「龍宮-II号」からさらに3カ月後(2012年2月)、ここまで小さくなった「龍宮-III号」

製品とほぼ変わらぬ量産試作機の「龍宮-IV号」

また、ロゴシーズの開発は、山形カシオと地元大学/大学院の産学連携で進められた部分もある。1つはデザインで、小型化に目処がついた「龍宮-III号」の少し前に当たるデザインは、美術系の大学からダメ出しされたそうだ。それから、直線と曲線、シャープさとソフトさをうまくミックスした現在のデザインが生まれた。

もう1つは、音声データのデジタル処理技術だ。レギュレーターをくわえたままでの少々聞き取りにくい発声をはじめ、水中の呼吸で泡が出るときのゴポゴポという音もかなり耳に入ってくる。これを高度にデジタル処理して骨伝導で人間に伝えているわけだが、実際の体験談からすると、多少慣れてくればクリアに相手の言葉を聞き分けられるようになった。

ロゴシーズは1つの完成形を見ているが、開発が終わることはない。将来的には、超音波アンテナの感度アップや指向性の広範囲化、バッテリ寿命の向上などを目指すという。また、ロゴシーズ開発で培ったノウハウを応用して、水中で使えるおもしろいデジタルガジェットをたくさん作りたいとも語ってくれた。

おまけ写真。左は山形カシオ内で実験に使われている巨大な水槽。右はロゴシーズ開発陣のデスク。写っている物体は違えど、ものすごく共感してしまうデスク