いきなり個人的な話で恐縮なのだが、30代ともなると青春時代、特に高校時代の出来事は遠い過去の思い出として記憶の向こうに消えつつある。もちろん断片的には思い出せるのだが、当時のリアルな気持ちまではもはや忘却の彼方なのだ。
だけど、それじゃあ寂しいじゃないか。青春時代の輝いていた日々や、何かに熱く打ち込んでいた熱量、好きな子の言動のひとつひとつにドキドキしていたあの頃の思い、大人になってしまった今こそ取り戻したい!
そんな気持ちになったとき、僕は「青春」を描いた映画を見ることにしている。もちろん漫画だって小説だっていいのだけど、2時間前後という短い時間で、しかも映像という"没頭できるメディア"は過去へ旅するのにぴったりなのだ。
ということで今回は、そんな青春の日々につかの間戻ることのできる傑作映画を2本紹介しようと思う。どちらもWOWOWで8月に放送される作品なので、ぜひチェックしてみてほしい。
リアルな青春描写に胸が締め付けられる「桐島、部活やめるってよ」
「桐島、部活やめるってよ」 WOWOWでの放送:2013/08/11(日) (C)2012「桐島」映画部 (C)朝井リョウ/集英社 |
何気ない日常の一言にも思えるセリフがタイトルになった本作は、同盟の小説を映画化したもの。映画になったことで原作とは物語の構成が変わっており、また違った良さがあると聞いていた。
いざ見てみると、これが思った以上の大傑作! 2012年のベスト映画に挙げるレビュワーも多いと聞くが、なるほど納得の作品だった。
そもそも学生時代は、人生の中において非常に特殊な時期である。何しろ、まったく異なる属性の人間が、学校という狭い空間で共同生活を強いられるのだから。なればこそ、摩擦や衝突も起こるし、逆に深い結びつきが生まれたりもする。本作はそんな青春時代を生きる学生たちの姿を、「桐島」という軸を通してリアルに描き出していく。
印象的なシーンを挙げてみよう。映画部に所属しており普段はまったく女子との接点がない前田(神木隆之介)はある日、リア充グループと仲のいい女子グループの一人であるかすみ(橋本愛)と映画館で偶然出会う。このとき前田が見た映画というのが「鉄男」で、これは普通の高校生が見るような作品ではない。いい作品なんだけど、めちゃくちゃマニアックで人を選ぶのだ。そんな映画を見に行った先で偶然クラスメイトの女子と出会い、しかも終わった後にベンチで話す機会を得たら、高校生、しかも見るからに女子慣れしていない前田はどう振る舞うだろうか。
答えは、「かすみがわざわざベンチの片方を空けてくれたのに、前田は座ることができずに立ったまま話す」のだ。ああ、もう! やめて! リアリティのナイフで胸をえぐるのはやめてください!
しかも、このとき前田がかすみに飲み物をおごるのだが、よりにもよってチョイスしたのがコーラ……。たぶん、これ、かすみが希望したんじゃなくて、前田が勝手に買ったのだろう。「女子にジュースをおごる」というところまではどうにかこうにか前田にもできるのだけど、そのチョイスがコーラであるというところに、非リア充の現実がよく表現されている。これが「ジュースも買えずにキョドる」わけじゃないんだよね。「ジュースは買えるんだけど、チョイスを間違える」のがリアルなのだ。うわあああ……書いているだけで手汗をかいてきた! ……ともかく、ここでの神木隆之介の演技は神がかっており必見である。
もうひとつ、リアルすぎてニヤニヤしてしまったのが、吹奏楽部に所属する女子・沢島(大後寿々花)だ。彼女は同じクラスで前の席に座っている宏樹(東出昌大)に密かな恋心を抱いている。しかし宏樹は文武両道でイケメンというハイレベルな男子であり、おまけに沙奈というかわいい彼女までいる。沢島の恋は、決して報われることのない片思いなのだ。
だから沢島は宏樹と付き合いたいとか、思いを打ち明けたいとは思っていない。だけど好きになってしまった気持ちはどうしようもない。そこで沢島は放課後、毎日のように、宏樹が友人たちとバスケで遊んでいる校舎裏が見える屋上でサックスの練習をするのだ。そして時折、そっと宏樹に視線を送るのである。
沢島のこの行動、共感できる人も多いんじゃないだろうか。学生時代とは、報われない片思いの宝庫だ。大抵の人は思いを伝えることすらできず、沢島のようにどこかで自分の気持ちに折り合いをつけるしかない。自分の気持を持て余し、屋上でサックスを吹く沢島の姿は、まさに青春を象徴するものだった。
他にも本作にはこうしたリアルな場面がこれでもかと登場する。リア充、オタク、スポーツマン、恋する少女……きっと、学生時代のあなた自身の姿も、本作のどこかに見つけることができるはずだ。