各所に加わったシステムの変更点
Windows 8.1では多くのデバイスがサポートされています。Build 2013のデモンストレーションで披露された3Dプリンターの標準サポートは、既に報じられているとおりですが、Bluetooth 4.0 LE(LowEnergy)の標準サポートは、今後重要になるバッテリ消費の効率性を高める上で重要なポイントとなるでしょう(図09)。
NFC(Near field communication:近距離無線通信)デバイスのサポートもさることながら、興味深いのは「InstantGo(インスタントゴー)」の存在です。同機能はネットワーク接続を維持しながら自動的にコンテンツを同期することで、デバイスがスタンバイ状態時でも常にデータを受信し、ライブタイルに反映させる仕組みだとか。どこかで聞いたことのある話ですが、それもそのはずInstantGoはConnected Standby(コネクテッドスタンバイ)を改称し、機能の刷新を図ったものだからです。
Connected Standbyに関しては以前寄稿した記事と開発者向けドキュメントをご覧頂くとして、気になるのは、Microsoftが開発者向けに提供している「Windows Hardware Certification Requirements」にもデバイス要件が掲載されていない点。
筆者が見落としているだけかも知れませんが、Microsoftの説明によると、InstantGo対応デバイスは瞬時にスリープを解除し、Connected Standby状態から復帰は300ミリ秒未満。消費電力の抑制により、最大14日間のバッテリ寿命を実現するそうです。前述のとおりハードウェア要件を確認できませんが、Connected StandbyもIvy Bridgeマイクロアーキテクチャおよび同機能に対応するメモリなどの組み合わせが必要であることを踏まえますと、今後登場するタブレット型コンピューターで真価を発揮することでしょう。
Windowsストアアプリで用いられるWindows RT(Runtime)も改善が加わりました。ハードウェア性能を最大限引き出せるようになり、新たにHID(ヒューマンインターフェースデバイス)やUSB、Bluetoothの接続をネイティブでサポート。さらにPOS(販売時点情報管理システム)デバイスや前述の3Dプリンターに加え、スキャナーなどで用いる新しいAPI(Application Programming Interface:簡潔にプログラムを記述するためのインターフェース)も加わっています(図10~11)。
さらに内部的な部分ですが、DirectXも更新されました。バージョン番号は「11.2」に更新され、Windows 8.1だけでなく欧米で発売予定のエンターテインメントデバイス「Xbox One」でのみ利用可能になる予定です。同社のプログラムマネージャーであるBennett Sorbo(ベネット・ソルボ)氏の言葉を借りれば、「DirectX 11.2は既存のアプリケーションとの互換性を維持しながら、パフォーマンスと効率性を高め、新たなハードウェアやシチュエーションに対応するためのAPIを追加する」とのこと。
具体的なAPIの列挙は避けますが、例えばWindowsストアアプリでゲームを楽しむ場合、一定レベルのフレームレートを実現するのは絶対条件です。ハードウェア構成によっては解像度を下げなければなりませんが、GPUのオーバーヘッドが発生すると同時にゲームの再現性(忠実性)を失うことも。そこでDirectX 11.2ではGPUスケーリング機能を実現するAPIを搭載し、ハードウェアオーバーレイを実現しています(図12)。
この他にも精細な2D画像や2Dインターフェースを適切な解像度に最適化するハードウェアマルチプレーンオーバーレイや、既定のバッファマッピングを操作することで、WindowsストアアプリからGPUのバッファに直接アクセスすることが可能になりました。もちろんデバイス側が対応している必要はありますが、初期のWindows OSとWinGの関係性を連想させます。
ちなみにWDDM(Windows Display Driver Model)もバージョン1.3に更新され、ワイヤレスディスプレイ(Miracast)や前述したマルチプレーンオーバーレイのサポートなどいくつかの機能が加わっています。詳しい情報は機会を見て紹介しますが、興味をお持ちの方は開発者向け資料.aspx)をご覧ください(図13)。
最後にWindows 8.1プレビュー時点で取り除かれている機能について触れましょう。以前も述べたようにWindows 8.1プレビューでは、フルバックアップを作成する機能が取り除かれています。ファイルのバックアップは「ファイル履歴」が担い、システムファイルの復元は「PCのリフレッシュ」が担っているため、Microsoftは同機能が不要と考えているかも知れません。
そうでなければWindows 8において「Windows 7のファイルの回復」という名称を付けないでしょう。もちろんRTM(Release To Manufacturing version:製造工程版)版でどのように変更されるか分かりませんが、Windows 8.1導入予定の方はフルバックアップを実行するためのアプリケーション導入を考慮する必要があるかも知れません (図14)。
もう一つ気になるのが、Windowsエクスペリエンスインデックス。改めて述べるまでもなく、Windows Vista以降導入されたWinSAT(Windowsシステム評価ツール)で測定したデバイスの性能をポイントとして表示する機能です。Windows Vistaでは最大ポイントは5.9、Windows 7では7.9に拡大され、Windows 8では9.9まで広がりました。
ハードウェア性能の指針として有用な機能ですが、Windows 8.1プレビューをインストールしたマシンでは、Windowsエクスペリエンスインデックスを確認するリンクが用意されていません。もっとも前述のバックアップ機能と異なり、WinSATの実体であるwinsat.exeはSystem32フォルダーに用意されていますので、一時的に外されていると見るべきでしょう(図15)。
Windows OSのコンポーネントを追加/削除する「Windowsの機能」を確認しますと、いくつかの変更点が確認できます。まず「Legacy Components」というカテゴリが用意され、そこに「DirectPlay」が加わりました。そもそもDirectPlayはDirectXを構成するコンポーネントで、主にネットワーク通信に用いられています。しかし、DirectX 8以降は更新されていないため、レガシーコンポーネントに分類されたのでしょう(図16)。
もう一つ加わったのが「SMB 1.0/CIFSファイル共有のサポート」。SMB(Server Message Block)はWindows 9x時代のファイルやプリンターの共有で使われてきたプロトコルの一種。既にWindows VistaでSMB 2.0を実装し、Windows 8やWindows Server 2008 R2でSMB 2.1を実装すると同時に、Windows XPのサポート終了も相まってオプション扱いに変更されたと思われます。ちなみにCIFS(Common Internet File System)は、SMBの仕様をドキュメントとして公開し、Windows OS以外で利用可能にした独自実装。LinuxのWindowsファイル共有サーバーであるSamba(サンバ)などが利用しています(図17)。
以上で、Windows 8.1プレビューを導入したユーザー向けにお送りするハウツーは終了となります。最後はハウツーではなく解説になってしまいましたが、今後登場するWindows 8.1 RTM版に向け、今から使いこなし方を是非身に付けてください。
阿久津良和(Cactus)