NECコンピュータテクノ甲府事業所は2013年2月から、電力系統連携型の家庭用小型蓄電システムの量産を開始している。NECの小型蓄電システムは5.53kWhタイプで、JET認証のほか、消防法で定められた3m落下への対応、国連輸送試験で定められた各基準への対応、システム機器としてのS-JET認証も取得するなど、安全性に配慮された設計となっている。
さらに安全面では、放熱性が高い電池構造や電池材料が採用されるとともに、屋外設置環境にも強い筐体構造によって、防火、防水、防塵、防虫の対策を施されているほか、電池の動作を常時監視し、異常時には即時運転を停止するようになっている。クラウドを経由して、24時間365日の遠隔監視を行い、保守センターを通じた早期対応のほか、予防保守も実施している。
同社では、小型家庭用蓄電システムを2012年3月に商品化し、2012年7月からNEC相模原事業場において生産および出荷を開始していたが、2013年2月、NECコンピュータテクノ甲府事業所に量産ラインを設置。年産1万台の体制で生産を開始し、2013年7月から出荷を開始することになる。
家庭向けの小型蓄電システムの生産ラインでは、工程の前部分のスペースに3日分の部品が在庫として確保されている。
主要部材については、全量を受け入れ検査した後に生産ラインに投入される。生産ラインではバーコードを利用して組立工程が管理されており、間違った部品が組み込まれないような工夫が凝られされている。これは、多品種変量生産となっているサーバー生産で培ったノウハウが活用されたものであり、1台ごとに異なる仕様でも正確に部品を組み込むことができるのが特徴だ。
「たとえば、ブレーカーは容量が異なっても、大きさやデザインが一緒であり、間違いやすい部品のひとつ。これもITを活用して、間違って取り出した場合には、警告を表示するなど、間違わずに取り付けられるようにしている」という。
また、生産ライン上には途中でいくつもの検査工程があり、筐体の気密性や安全性に関する確認、抵抗試験、耐圧試験、システム機構試験などが行われることで、品質が確保されている。特に、筐体の開閉部はゴムパッキンで気密性を高めており、製造時にはエアリーク試験を全数を対象に実施しているという。現在、生産ラインは4人体制となっており、組立や試験などを経て、3時間で1台が生産されることになる。
今後は生産ラインを1ライン増設し、2013年度下期には2つの生産ライン体制となる。年間2万台に生産規模を拡大する見込みだ。
NECでは、国内初となる蓄電池レンタルによる家庭向けエネルギーサービスを、オリックス、エプコと共同設立したONEエネルギーを通じて開始するが、ここで活用される家庭用蓄電システムも、NECコンピュータテクノ甲府事業所で生産される。ONEエネルギーは、今年度中に1万件、2015年度までに10万件の家庭に対して同サービスを提供するという。
さらに、新築物件向けの蓄電システムの供給に加えて、リフォーム向けにも販売チャネルを拡大。エスバイエルや積水化学、ミサワホーム、三井ホームなどのハウスメーカーのほか、建材商社などの販売パートナーや家電量販店でも取り扱われることになるという。
NECでは「今後も、生産ラインの拡大とともに、量産によるコスト低減、効率化を追求し、さらなる生産性向上を実現していく」としている。
一方、NECコンピュータテクノ甲府事業所では、家庭用蓄電システムに加えて、250kWhを誇る大型蓄電システムや、50kWhの中型蓄電システムの試作にも取り組んでいる。これらは、横浜スマートシティプロジェクト向けや、イタリア大手電力会社ENEL(エネル)向け、経産省のIT融合プロジェクト向けに納めるもので、今後、NECコンピュータテクノ甲府事業所での生産が行われることになる。
NECの中期的成長を支える蓄電システム
昨今の節電ニーズの高まりを背景に、昼間のピーク時の電力使用を抑えるピークシフトへの取り組みや、太陽光発電をはじめとする自然エネルギーの活用、災害や停電時にも電力を確保できるライフラインの維持という観点で、蓄電システムのニーズはますます高まっている。
NECは、蓄電システムを活用して、エネルギーマネジメントシステムやEV・PHV充電インフラと連携を行うスマートエネルギー事業を成長の柱に据えている。そこにNECが得意とするICTを利活用しようと考えているのだ。NECコンピュータテクノでの蓄電システムの量産体制の確立は、NECの中期的成長を支える重要な取り組みのひとつになるのは明らかだといえよう。