山梨県甲府市にあるNECコンピュータテクノ

NECは、2015年度を最終年度とする中期経営計画において、社会ソリューション事業への注力を掲げている。社会ソリューション事業は、パブリック、テレコムキャリア、エンタープライズ、スマートエネルギーから構成され、そのなかでも新たな柱として投資を加速する姿勢を示しているのがスマートエネルギー事業である。4本の目の柱と位置付けられるスマートエネルギー事業において重要な役割を担うのが、蓄電システムである。このほど、システムを生産する山梨県甲府市のNECコンピュータテクノ甲府事業所を訪問し、小型蓄電システムの量産ラインを取材する機会を得た。生産ラインからNECの蓄電システムへの取り組みを追った。

コンピュータ生産のノウハウを活用

蓄電システムの生産を行っているのは、山梨県甲府市のNECコンピュータテクノ甲府事業所だ。その名称からも分かるように、同社は1985年の設立以来、NECのコンピュータ事業の基幹工場の役割を担っており、現在でもスーパーコンピュータやメインフレーム、サーバー、ストレージ、コンビニエンスストア向け端末などを生産している。2013年6月からは、NECの垂直統合型システム「NEC Solution Platforms」も、同社で生産されることになる。

同工場で、家庭用蓄電システムの量産を決定したのには理由がある。

コンピュータ生産で培ったハードウェアのモノづくりノウハウを活用できることや、EMCセンターや大型恒温槽などの試験設備を保有していること、メインフレームなどで求められる高い信頼性を実現するための品質保証プロセスを持つということが大きな理由だ。

たとえば、EMCセンターは1992年に設置された試験施設で、コンピュータ機器が発する電磁波が他の電子機器に影響を与えないための基準であるEMI規制、コンピュータが外部の電波によって誤動作を起こさないためのEMS規制に適合しているかどうかを検査することができる。

甲府事業所内に設置されているEMCセンター

コンピュータの試験用に作られたものだが、小型蓄電システムの検査にも利用される

設置された電波暗室は、広さ25.4×18.4m、高さ7.4mという規模であり、コンピュータ向け施設としては日本で最大規模。室内には、直径10m、積載荷重20t(トン)の大型ターンテーブルが設置されており、大規模システムの測定も可能にしている。

これだけ大規模な施設としたのは、スーパーコンピュータのような大きな筐体を持つシステム製品の測定を可能するためであったが、これは大型蓄電システムの試験にとっても適したものであった。

蓄電システムでは、系統連系保護装置において、JET(一般社団法人電気安全環境研究所)認定に対する評価試験が必要であり、甲府事業所内にある電波暗室の活用は、蓄電システムの製品品質を高める上でも重要な取り組みとなる。

また、甲府事業所内の大型恒温槽は広さ5.1×2.4mに4mの高さがあり、やはり蓄電システムの品質試験にも十分活用できるサイズ。プログラム制御により、マイナス30度からプラス80度までの温度サイクル試験、10%から95%RHまでの湿度サイクル試験を実施することができ、これも品質向上に直結する取り組みになる。

さらに、大型装置にも対応できる物流ヤードを持ち、リチウムイオン電池用の電極、蓄電システム用の電池セルを生産する神奈川県相模原市のNECエナジーデバイスと距離が近いという点も、NECコンピュータテクノ甲府事業所で蓄電システムの量産を開始する理由のひとつといえる。

加えて、蓄電システムに利用されるリチウムイオン電池の電解液が取扱危険物となるため、生産現場は、その保管のために特別管理を行う施設に改良される必要があった。NECコンピュータテクノ甲府事業所では、事務技術棟の1階のエリアを利用して、特別管理施設へと改良。これも同工場で蓄電システムを生産する理由ともなっている。

NECコンピュータテクノで生産される小型蓄電システム

リチウムイオン電池のなかの電解液が危険物となるため、生産ラインは危険物の特別管理を行っている

現在、最大で1,000l(リットル)までの電解液を保有することができるが、部材としての在庫、生産ライン上の製品、完成後の出荷前保管状態などを含めて、一定のしきい値に達すると警告を発するなど、ITを活用して安全管理を徹底しているのが特徴だといえる。

NECでは、「サーバーなどの生産で培ってきた部品発注・在庫管理などのサプライチェーンマネジメント(SCM)や、電波暗室、恒温槽といった品質測定設備の利用など、NECのモノづくりのノウハウを結集し、高効率な生産ラインを実現してきた生産革新の経験を基に、NECコンピュータテクノ甲府事業所での蓄電システムの量産を決定した」と説明する。

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