堤真一が主演を務め、福田雄一監督がメガホンを取った映画『俺はまだ本気出してないだけ』が、6月15日に公開を迎える。同作は青野春秋の同名漫画を原作に、堤演じる41歳のダメ男・大黒シズオの奮闘劇を描いた。父親には毎日怒鳴られ、高校生の娘には借金し、ファストフードのバイト先ではミス連発。さえない日々を送っていたシズオだったが、ある日、思いついたように漫画家の道を目指しはじめる。

そのシズオが持ち込んだ渾身の作品を「ボツです」の一言で一蹴するのが、指原莉乃演じる担当編集者・宇波綾。アイドルユニットのAKB48としてデビューし、第5回AKB48選抜総選挙では見事1位に輝いた指原は、福田監督作のドラマ『ミューズの鏡』で初主演。『コドモ警察』『メグたんって魔法つかえるの?』『勇者ヨシヒコと悪霊の鍵』など、その後も福田監督に起用され続けている。福田組の申し子ともいえる指原莉乃と、彼女の女優としての魅力を世界中で最も知るであろう福田監督。今回実現した対談では、女優と監督の枠を越えた異空間トークが繰り広げられた。

指原莉乃
1992年11月21日生まれ。大分県出身。2007年にAKB48メンバーとしてデビュー後、バラエティ番組を中心に活躍。2012年には念願のソロデビューを果たし、その後HKT48へ移籍。福田雄一監督がメガホンを取った日本テレビ系『ミューズの鏡』でドラマ初主演を務め、同作の映画化作品にも出演した。

――2人が出会ったきっかけは?

福田「『ミューズの鏡』というドラマで初めてお会いしました。すごく不思議な感覚だったのが、撮影初日の朝イチからフランクに話せたんですよね。女優さんとか女性のタレントさんだと、わりと時間がかかるタイプなんですけど、男性だとすんなり入っていけるんですよね。初めて顔を合わせてから、友達みたいに接することができたのは、僕的には奇跡だったんです。ドラマが初めてなのは分かってたんですけど、セット入ってきてリハーサルする時に一番最初にさっしーに言ったことは『ここのスタッフはフジの月9をやっている人だから』」

指原「ダメですよね。プレッシャーをかけてくるんですよ!」

福田「すごい緊張しているのが分かったんで、さらにどん底に落としてやろうと(笑)。撮影の前日にさっしーが書いたブログを、妻が読んだみたいで。『あなたの台本が遅れたせいで、さっしーが緊張してて大変みたいよ』って言われたんで、もっといじめてやろうと思って(笑)」

指原「ひどいですよね、この圧のかけ方!」

福田「でも、初対面の時からずっとそのスタンスでやらせてもらってます」

――今後も指原さんは福田組の常連メンバーになるのでしょうか。

福田「入ってきてほしいですね」

指原「イェーイ! イェーイ!」

福田「入れていきたいんですけど、なかなかこの方はお忙しいので。めでたく博多の方とか行かれたりして。なかなかスケジュールが合わなかったりして、本当に最近悔しい思いをしました。でも、トライし続けます。なくてはならない存在になりつつあるので。この適当女優が(笑)」

指原「私、福田監督のことを知らなくて、最初に現場に入った時にまずは監督さんを探さなきゃと思って。これすごい失礼かもしれないんですけど、福田さんのことを大道具さんだと思ったんです。すごく緊張してて。でも、福田監督を紹介してもらった時に、明るそうな人でよかったと思いました。張り詰めた現場だと思っていたので」

(C) 青野春秋・小学館 /「俺はまだ本気出してないだけ」製作委員会

福田「僕は初対面をがっかりさせるタイプみたいで。『ミューズの鏡』の後にこじはる(小嶋陽菜)の『メグたんって魔法つかえるの?』というドラマを撮ったんですが、その本が出ましてね。インタビューで、『噂では面白い人だと聞いてたけどたいして面白いことも言わないし』みたいなことを言ってて(笑)。かたや僕は、彼女の印象を『愛想がない女性で初対面の印象は最悪でした』みたいに言ってて(笑)。それに比べるとこっちの感じは順調でしたね。あんなに早くコミュニケーションとれたのは初めてだったんですよね。気を使ってなかったんだろうな?」

指原「気を使ってほしいですけどね!女優っぽくて、ちょっとはうれしいです(笑)」

福田「かわいくなかったんですよね…」

指原「ひどい!」

福田「ははははっ!朝イチだったから(笑)。ちょっと顔がむくんでいたのかもしれないですけど。ぶっちゃげかわいくなかったんですよね(笑)」

指原「まぁまぁ、それは否めないですけどねぇ」

――度々、指原さんを起用されていますが、「女優・指原莉乃」の魅力とは?

福田「いわゆる、女優としての魅力がないところがいいんですよね(笑)。これはイメージなんですけど…グワーっと向かってくる人は僕、苦手なんですよ。私頑張ってますとか、私やる気ありますとか。例えば、このセリフはどんな気持ちで言えばいいんですか? って言われると…(笑)。この役はどんな人生を歩んできたのかを聞く人もいますし。でも、僕の書くものは、一言のセリフがいちばん面白く聞こえればいいという感じなので。だから、さっしーのように、『女優になりたいわけではない』と言っているアプローチが僕にとってはすごく気持ちいいんだと思います。だから、『ミューズの鏡』の現場で、この先私はどういう展開になるんでしょう? と聞いてくる人だったら、ちょっと重かったし、その後さっしーさっしーと言い続けることもなかったと思います。なにしろやる気ない感じで軽く挑んで、セリフだけ言って帰っていくみたいな(笑)」

指原「でも、考え変わりました。ある女優さんの逸話なんですけど。次のシーンを前に不安そうにしていた女優さんに、ある人が『えっ?っていうセリフしかないからいいじゃん』って言ったそうなんです。でもその女優さんは『えっ? だけだといろんな表情があるから難しすぎる』って言ったんです。すごいおしゃれと思って!」

福田雄一
1968年7月12日生まれ。栃木県出身。1990年、成城大学演劇部を母体に、劇団ブラボーカンパニーを旗揚げし、座長として構成・演出を担当。1995年から外部公演で活動を続けながら、フジテレビ系『ピカルの定理』など高視聴率番組に放送作家として関わる。一方でテレビドラマや映画の脚本家・監督としても活動の幅を広げ、最近では『コドモ警察』『HK/変態仮面』といったヒット映画を手掛けた。

福田「ええええええーーーー!? わりと常識なんだけど!」

指原「私はどちらかというと『セリフが全然ない!イエーイ!』というタイプじゃないですか。私、演技とか全然わからないので。でも、次に演技をやることがあったら、セリフが少なかったら悩むようにしようと思います」

福田「でも、その話はすごく分かるのよ。『えっ?』って言ってもいろんな表情があるからさ。それは悩むのは当然で」

指原「私はその場面になったとしても、1個の『えっ?』しかなかったと思います」

福田「この人は本当に、なんにも力みのない『えっ?』みたいなのを繰り出してくるんですよ。でも、そっちの『えっ?』じゃなくて、こっちの『えっ?』なんだよっていうと、こっちの『えっ?』もできちゃったりするんですよね。だから、もともとのポテンシャルはあると思うんですよ。やる気がないだけで(笑)」

指原「やる気はありますよ!ちょっと」

福田「ちょっとでしょ(笑)?」

指原「やる気はあるんですけど、女優としての意気込みはあまりないというか…」

――今回の登場シーンも短いセリフでした(堤真一に対して言う一言「ボツです」)。それもやはりうれしかったのでしょうか。

指原「はい!うれしかったです。なんて言っていいのかわからないですけど、覚えるのが苦手なんですよね」

福田「『ボツです』は、なんの狙いもない『ボツ』ですが欲しかったんですよ。それまで積んできたものがボツになるシーンなので、狙いが何一つあってはいけないと思ったんです。なんの同情もない一言なので、主人公はショックですよ。それを言える女優としては、唯一無二の存在でした」……続きを読む。