投資をしないことが一番のダメージ!?

最近、「投資・運用」といった記事をよく見かけますが、20代、30代においても投資をすべきなのでしょうか? 金融庁金融経済教育研究会のメンバーなどを歴任し、投資に詳しいファイナンシャルプランナーの神戸孝さんにお話を伺いました。

――新婚、これから結婚を考えているような20代、30代でも投資を検討すべきでしょうか?

神戸 客観的に考えて、投資運用を考え始めた方がいいとは思いますね。理由はいくつかありますが、最大の理由としては日本人の収入が伸びなくなってきていることがあげられます。90年代前半、サラリーマン世帯の年収は570万円前後だったのが、今は500万円前後です。日本のGDPは2012年、中国に抜かれて世界3位になりました。日本のひとりあたりのGDPは今、世界で何位かご存知でしょうか。

現在、日本は17、18位です。GDPというのは分かりやすく言えば、国の年収です。それを人口で割ったのがひとりあたりのGDPですが、90年代前半、日本は世界で3位だったのに、ズルズルと落ちてしまいました。そして今後も日本のGDPが大きく伸びる要因は見当たりません。

――なぜ、今後も日本のGDPが伸びないとお考えなのでしょうか? それがどう投資に関係するのでしょうか?

神戸 現在、日本のGDPは約500兆円で、その6割が個人消費です。個人消費が景気の6割を作っているのに、日本の人口のピークは2005年あたりで、今後どんどん減っていきます。今から約40年後の2055年、今の20代、30代が老後に向かう頃には、日本の人口は現在の3分の2程度になっていると推定されています。そう考えると、300兆円の消費(500兆円の6割)を維持していくのは難しいでしょう。

貿易収支の赤字傾向が続き、国内経済の成長も期待しにくい中で、「自分が働けば収入が増えていく」というのは難しい社会に向かっています。だからこそ投資なんです。日本人の個人金融資産の総額は1,500兆円と言われています。1,500兆円という額がどれくらいすごいかと言うと、1%利回りを上げて運用できれば15兆円の利息収入が生まれます。15兆円というと、日本のGDPが3%上がるのと同じ効果ですから、すごいパワーです。

投資をしていないとダメージだけ受ける

――貯蓄額が少ないであろう若年層や新婚世代などから見ると、「はぁ……」という話のような気もしますが……

神戸 個人の資産ですから、いずれは親から子に受け継がれていくものです。せっかく大きなパワーを持つエンジンがあるのですから、それをムダにしない。自分も頑張って働くが、自分のお金にも働いてもらう。そういうハイブリッド型エンジンで、収入を増やしていくべき時代になりつつあるということです。

――親から受け継いだ資産を「投資」に回すのは気がとがめます

神戸 日本人には「親の遺言で株はやるな」のようなメンタリティがあるようです。確かに、昔は投資をしていなくても痛くもかゆくもなかったでしょう。例えば1987年のブラックマンデー。この時も株が大暴落したのですが、当時、大騒ぎとなったのは株式投資をしていた一部の人と証券会社くらいでした。でも今はサブプライム問題やリーマンショックで、就職は超氷河期、ボーナスカット、リストラが進むなど、全く株式投資をしていない人まで大きな損害を被っています。

つまり、投資をしていない人でも、金融市場の悪影響を大きく受ける社会になってきているわけです。投資をしていれば、マーケットの調子が良ければもうかりますし、悪ければ損をする。これは当たり前です。でも、投資をしていないと、調子が良くてももうからず、悪い時のダメージだけ受ける。投資をしていないと、「ダメージしか受けない」というような経済環境になってきていると言えるでしょう。だったら、投資をやった方がいいとは思いませんか?

プロフィール : 神戸 孝(かんべ たかし)

FPアソシエイツ&コンサルティング代表取締役、CFP(サーティファイド・ファイナンシャル・プランナー)、日本FP学会会員、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。1980年に三菱銀行入行、イマジニアの設立に参画後、1987年に日興證券入社。日興證券を退社後、FPアソシエイツ&コンサルティングを設立。独立系FPとして個人・法人等のコンサルティング、各種講演会・研修会講師などを行う傍ら、全国の独立系FPのための支援ビジネスも展開している。日本FP協会理事、金融庁金融経済教育懇談会委員、同金融経済教育研究会メンバー、同金融審議会専門委員などを歴任。著書に、『幸せな老後を呼び込む ほんとうに真っ当な資産運用』(朝日新聞社)、『団塊世代の資産運用』(インデックスコミュニケーションズ)など多数。