この貴重な機会に、生徒たちは何を問うたのか。それはとても、ピュアな質問

遠隔地を繋ぐ「Skype in the classroom」。既に教室は、マーク氏のいるヒマラヤの一部と化した。限られた時間のなか、マーク氏の言葉、スクリーンに映し出される映像から様々な情報を読み取っているのが見て取れる。そんななか、「じゃあ質問はあるかな?」とのマーク氏の声を皮切りに、生徒のひとりがPCの前に歩み出た。「マークさんはいつから登山へ情熱を注ぐようになったのですか?」との問いに、「良い質問をありがとう」と謝辞を述べ、「僕は自分のことを極地探検家だと思っているんだ。

去年僕が北極や南極を歩いていたのを知っているかもしれないけど、極地を歩くのが好きで情熱を持っている。もうかれこれ10年近く極致のハイキングを案内しているんだけど、そろそろエベレストにアタックする時期かな、と思ったんだ」と情熱の一端を、ゆっくり生徒にわかりやすく伝えながら、「僕の本当の情熱は、登山や極地探検に向けられているんじゃないんだ。実は、限りある人生の中で、変わったもの、違ったものを見たいと思う“子供のような直感的な感覚”なのかもしれない。そして、その楽しさに元気をもらっている。人生で“楽しい”と思えることを見つけることが出来るんだ。それが僕の情熱かな」とマーク氏。冒険家へのきっかけは、子供さながらの好奇心からだ。

生徒の質問に真摯に応えるマーク氏

その“子供のような直感的な感覚”は次の生徒からの質問でも披露された。「コレまでに体験した登山での難題は?」という質問を聞きながらも、「質問に応える前に、まずひとつやってみてくれるかい? モニターが見えると思うんだけど、モニターに手を当ててみてくれないか? そう! 手をあげて。ほら! 僕らは今、バーチャルに握手したんだ! 何千マイルも離れているのに握手をしている。素晴らしいと思わないか?」と茶目っ気を披露しつつも、一番の難題は自身の体調管理だとマーク氏。

標高が高いところへ登っていくためには、気圧や酸素など周囲の環境変化に慣れるのが大変なのだとか。「みんなが見ているように、この辺りは茂みだけで木は見当たらない。この辺りでは育たない植物があるんだ。だから、こういった環境の変化に慣れるのも大変かな。でも、イギリスに戻ってみんなに今回の探検報告をするときは、幾千もの“大変だったこと”の話が出来ると思う」とマーク氏。環境に応じて植生が異なることなどを、ライブ映像を見せながら紐解いていくスタイルは「Skype in the classroom」ならではの醍醐味だろう。

茶目っ気たっぷりのマーク氏。Skypeを使ったバーチャル握手のシーン

予定時間を少々オーバーしてしまったためか「次の質問が最後になっちゃうけど、いいかな?」とマーク氏。歩み出た生徒は「登山の際にはどんなギアを使うのですか?」との問い。

するとマーク氏は「最も大事なギアのひとつはアイゼン(Crampon)だね。ブーツの底に取り付けるスパイクのようなもので、氷の上を歩く際に滑り止めになってくれるんだ。また、標高7000~7500mを過ぎたところで空気が薄くなるから酸素も使う事になる。吸い込む酸素が少なくなるんだ。そこはもう、僕の知らない世界で身体がどう対応していいのか分からなくなることから"デス・ゾーン(death zone)"と呼ばれている。そうだね。例えるなら、国際線の飛行機に乗って高度30,000フィートでドアを開けて踏み出す。その高さがエベレストなんだ。だから、もう全く違う世界だよね」と今回の冒険の厳しさを語りつつも「でも、これが一番の装備かもしれない」と取り出したのは、横浜インターナショナル・スクールのロゴだった。

ロゴが映し出された瞬簡、ワッと湧き上がる生徒たち。「みんなの学校のロゴを持ってエベレスト山頂へ辿り着いたとき、世界のてっぺんでみんなの学校のロゴを撮影して、探検隊みんなのサインを書き込み、お楽しみのお土産と一緒に学校に送らせてもらうよ。それは、僕らからの感謝の気持ち。僕達が冒険を続けられるよう元気づけてくれるみんなへの御礼です」と語り、僕たちと一緒にエベレストへの冒険を共にして下さい、と締め括った。

登山でどんな道具を使うのか。小学校5年生らしいピュアな質問にも、真摯に応えるマーク氏

一番重要な装備かも、と取り出したるは横浜インターナショナル・スクールのロゴ

サプライズプレゼントにサムズアップで応える生徒たち。キラッキラな笑顔がまぶしい

僕たちはマークと会ったんだよね!とSkypeでのビデオ通話の経験を興奮気味に語る生徒の姿に「Skype in the classroom」の意義を垣間見た

エベレストと横浜を繋ぐ遠隔授業が終了し、興奮冷めやらぬ様子の生徒たち。そこには、数多の興味と、新たな疑問が湧き上がり、爛々と目を輝かせた子供らがいた。帰りがけ、ひとりの生徒に「ねえ、マークさんとは会ったことあるの?」と尋ねられ、「いいや会ったことはないよ。たぶん、ここにいるみんなね」と応えると、「じゃあ、僕らは会えたんだ。Skypeで会って話をしたんだ!」と喜びながら教室を出て行く生徒の後ろ姿と生徒の言葉が強く印象に残った。

12分7秒という短い時間ではあったが、非常に濃密で生徒らの心にいつまでも残る授業だったことだろう。マーク氏の言葉も暖かい

「Skype in the classroom」のような取り組みは、好奇心旺盛で学び盛りの生徒らにとって、非常に刺激的で有意義な時間、授業となることは、今回の取材でも窺い知ることができた。もし、本稿を教育関係者がご覧になっていたら、「Skype in the classroom」のWebサイトをチェックしてもらい、子供らに新たな可能性、選択肢を広げる一助としてもらえれば幸いだ。