「魔法で狩ろうぜ!」のテレビCMでおなじみ、PlayStation Vita用ソフト『SOUL SACRIFICE (ソウルサクリファイス)』。「狩ろうぜ!」というキャッチコピーに、某ゲームを思い出すのは筆者だけではないだろう。

狩りゲーという呼び方は正しいのだけど、誤解を招きそうでもある

……某ゲームと書いたが、ボカしてもしかたないのではっきり言う。モンハンこと『モンスターハンター』である。「狩り」といえばまず真っ先に思い浮かぶタイトルだ。

『ソウル・サクリファイス』がモンハンを連想させるようなキャッチコピーでプロモーションしているのは、もちろんわざとであろう。あまり景気のいい話を聞かないゲーム業界で、シリーズ物でもリメイクでもない完全新規タイトルを売るのは非常にハードルが高い。ならば少しでも既存のマーケットにアピールしていくのは当然の戦略といえる。事実、モンハンのヘビーユーザーである筆者が『ソウル・サクリファイス』に興味を持ったのも、「狩り」という単語がきっかけだったのだから。

しかし、この『ソウル・サクリファイス』を実際にプレイしてみると、モンハンとはまるで違うゲームであることに気付かされる。ジャンルとしてはたしかに「狩りゲー」なのだけど、狩りといえばまずモンハンである現状では、多少の誤解を招きそうな気がしている。

賛否分かれそうな独特の世界観がたまらない

『ソウル・サクリファイス』の世界観は独特だ。カテゴライズするなら「ダークファンタジー」ということになるだろうか。モンハンが光ならソルサクは闇だ。画面の彩度はかなり抑えめで、曇天がずっと続いているような鬱屈とした空気感がゲーム全体に漂っている。


昔の重厚なファンタジー小説のようで筆者は大好きだが、この世界観は正直いって人を選ぶ。間違ってもアイルーは出てこないし、魔物のビジュアルはかなりおどろおどろしい。ダメージを受けると血しぶきが飛ぶなど血を用いた表現も多いので、残虐表現が苦手な人にはちょっと辛いかもしれない。

ソルサクの世界観を的確に表現しているイラスト。だいたいこんな感じ

魔物たちのビジュアルも既存のゲームとはずいぶん異なっている

その意味では「狩ろうぜ!」みたいな軽いノリのゲームでは決してない。アレはあくまでCM的表現なのである。しかし、中途半端にモンハンに似た雰囲気を出されるよりは、いさぎよく"闇"に振り切ったソルサクは好印象だ。「ついてこられるやつだけついてこい!」という稲船敬二氏(本作のコンセプター)の気迫のようなものが感じられる。

『ソウル・サクリファイス』で、プレーヤーは魔法使いとなってモンスターと戦う。魔法というとゲーマー的には手から火の玉を放ったり、吹雪を巻き起こしたり、稲妻や嵐を呼んだりという"間接攻撃"のイメージがあるが、本作ではそうではない。たとえば腕を巨大化して敵を殴ったり、フィールドの自然物から武器を作り出したり、自らの体を石で包んで鎧化したりと、もはや"何でもあり"なのだ。見た目も典型的なローブ姿ではなく、どちらかといえば戦士のような風貌である。この時点で、筆者が持っていた「魔法」「狩り」に対する先入観はバラバラだ。「魔法で狩ろうぜ!」は、間違ってはいないけれど、いろいろ誤解を招きそうな表現ではある。

何でもありという中には、こういうちょいグロテスクな表現も含んでいる

いい意味で予想外だった重厚なストーリー

モンハン的イメージで始めたソルサクだが、まず驚かされたのはその重厚なストーリーだ。モンハンにも一応のストーリーはあるが、他の要素に比べるとオマケ程度である。対するソルサクにはかなりしっかりとした"物語"が用意されている。

魔法使いたちが織りなす物語は重厚かつ奥深い

プレーヤーは、言葉を話す謎の書物リブロムに出会い、その中に書かれた「ある魔法使いの物語」を追体験していく形でストーリーを読み進めていく。これが「クエスト」である。試練をクリアして魔法使いになった主人公は、「アヴァロン」と呼ばれる組織に所属し、さらに物語が進んでいくのだ。この物語がまた、非常にダークで救いのない雰囲気になっており、世界観とよくマッチしている。狩りゲーと聞いて、ストーリーにはそれほど期待していなかったのだが、これはうれしい誤算だった。もっともストーリーといっても、小説のように大量の文字を読む必要があるわけではなく、ムービーが過剰に挿入されるわけでもない。ほんの少しのセリフと、状況を説明するボイス付きナレーションのみで、プレーヤーに物語の行間を想像させるのだ。シリーズ物でない完全新規タイトルで、プレーヤーと製作者の間にまだ何の共有知識もないことを考えれば、これはなかなかにすごいことである。世界観のディテールが一貫性を持って作りこまれているからこそ実現できたのだろう。……続きを読む