P2Pテクノロジの応用で新たなる可能性を期待

BitTorrent Syncは主にNATを用いて相互接続し、UDPを用いてデータの送受信を行っている。互いの存在はブロードキャストによって検出しているため、現バージョンではインターネットを介したファイル同期環境の構築は行えなかった。もっとも前述したようにNAS上でBitTorrent Syncを実行すれば、NAS側の機能で外出先からファイルにアクセスできるため、フォルダー同期を目的とするBitTorrent Syncがインターネット経由の同期機能を備える必要はないだろう。なお、動作確認したNASとして、QNAPのTurbo NASシリーズやSynologyのDiskStationが挙げられている。

興味深いのは同期フォルダーを追加する際に異なるシークレットキーを使用できる点。<Shared Folders>タブで新たな同期フォルダーを作成する際は、既存のシークレットキーを入力するか、<Generate>ボタンで新たなシークレットキーを生成する。そのため前者の場合は既にネットワーク参加済みのデバイス(コンピューター)に公開されるが、後者の場合は新たなシークレットキーを知るデバイスしか参加できない。特定のフォルダーを限定して公開する際に有用な機能だ(図13)。

図13 共有フォルダー新設時に既存のシークレットキーや新たなシークレットキーを生成することが可能

同期フォルダー内のファイル操作だが、基本的にOS側で設定した動作に追従する。例えばエクスプローラーでファイルを削除した場合は、ごみ箱フォルダーに移動するという仕組みだ。一方のデバイスでは、削除されず「.syncTrash」フォルダーに移動するため、ファイルを消失する可能性は少ない。複数のユーザーが同一のファイルに変更を加えた場合は、新しいコピーが作成される仕組みを採用。このあたりはオンラインストレージを利用したファイル同期機能と同じだ(図14)。

図14 同期フォルダーのファイルを削除すると、一方のデバイスでは「.SyncTrash」フォルダーに移動する

フォルダーの同期では、新規接続者にピアのIPアドレスを教えるTrackerサーバーの利用や、DHT(分散型ハッシュテーブル)を用いて接続したクライアント同士の負荷を軽減するDHTネットワークの検索も可能。興味深いのは同期フォルダーとして使用できるシークレットキーの他に、フォルダーの参照だけが可能なシークレットキーと、24時間のみフォルダー同期が可能なワンタイムシークレットキーが生成できる点。単なるファイルの冗長化だけでなく、さまざまな用途に使えそうだ(図15~16)。

図15 同期フォルダーのプロパティからは、DHTネットワークの検索やトラッカーサーバーの使用が可能になる

図16 通常のシークレットキー以外にも、フォルダーの参照権だけを与えるシークレットキーも生成可能。24時間に使用を限定したワンタイムシークレットキーもある

BitTorrent Syncは、Peer exchangeと呼ばれる複数のピアを交換する機能や、前述したDHTネットワークやBitTorrentのTrackerサーバーを利用することで、単なる同期フォルダーを実現するツールから脱却し、企業の基幹サーバーと支社のサーバーにおけるデータ同期をも可能にする可能性が高い。BitTorrent Incの業務内容を踏まえれば、現実的な路線と思われる。

BitTorrent Syncはまだアルファ版であり、未完成版だが、新たなファイル同期スタイルを作り出せる期待大のソフトウェアになりそうだ。今後のバージョンアップに期待したい。

阿久津良和(Cactus