――周囲に悪態をついたり、とにかくどうしようもない役柄でしたが、藤原さんの最も印象に残っているシーンは?
藤原「映画を見て思ったのが、みんなからこんなに狙われていたのかということなんですよ。撮影中は1対1のような感覚だったんですけど、見てるとここまでかとあらためて思いましたね」
――狙っていない人でも狙っているように見えてきますしね。
藤原「よく守ってくれましたよ、銘苅警部は(笑)。でも、演じ終わって感じるのは、清丸は幼女好きという部分はありますけど、あとはいろんなことに『どうでもいい…』というか。そんな感じなんじゃないのかな。『どうでもいい』っていう、その一言だと思う、僕は。だから、時代を映す鏡じゃないけど、こういう塊のようなものを抱えている人って世の中にたくさんいると思うし。だから、演じていてそういう部分がすごく好きなキャラクターではありました」
三池「自分の命よりも大事なものがあるんですよね。再犯だと死刑になるから、捕まることを恐れてもっとうまく生きるし。例えば、もっとうまくやる方法を選ぶなら、バレないようにやるという選択になると思いますが、清丸はストレート」
――清丸が吐く最後の言葉がまさにそれを表していると思うんですが、衝撃を受けました。
三池「僕は、映画の中の登場人物が成長していくのがあまり好きじゃないんですよ。いろいろあったのに、こいつ変わらないなみたいな」
藤原「あははははっ!」
三池「ただ、そこには完全な絶望じゃなくて、そういう人間もいるということなんですよ。集団ではなく個人。銘苅から生まれるものは、まさにそれで。絶望だけじゃなく、そうじゃない可能性もあると。だからこそ、清丸にあの一言を言わせたかったんですよね。普通に台本作ってもらったら、あんなこと書けませんよね」
藤原「今思うと、そのシーンも印象的でしたね。これも本番直前に監督から『こんな言い方にしてみようか』って言われてそのままやりました。撮影部とか面白いんですよね。そのシーンをカメラの向こう側で見守ってる感じが。言いやがったな清丸!みたいな(笑)」
――そのほかにも衝撃的だったのが、清丸が松嶋菜々子さん演じる白岩篤子に「くそばばあ」と罵倒するシーンです。
藤原「あれはですね(笑)。監督は松嶋さんの目なんか一切見ずに、耳元で「くそばばあね、くそばばあ」って(笑)。僕は松嶋さんと目が合っているから、すいませんっていうしかないですよね。さすが監督だなぁと思いました(笑)」
三池「今日、松嶋さんから告白されましたね。ピシっと言われましたよ。「くそばばあって言われるのはまだいいんですけど、おばさん臭いはショックでした」って。これだけは言っとかないとと(笑)」
藤原「相当ショックだったんじゃないですか(笑)」
三池「ただ、本当だと思うんですよ。おせっかいだとか、うるさいとか、気に障るとかみたいないら立ちはあると思うんですけど、幼い子どもだって年をとれば大人になっていくわけじゃないですか。だから清丸にとっては、たとえ美しい大人の女性代表が松嶋さんだったとしても、幼女とは違う存在ですからね。そういう彼の嗅覚も含めた”におい”なんです」
――そういう耳打ちが頻繁に行われていたんですね。
藤原「でも、ほとんど(台本と)変わらないですよ」
三池「やりながら変えていくことはありますけど…例えば銘苅と清丸のあるシーンなんかは、演出家の立ち入る隙間はないんですよね。現場を決めて、そこに俳優を連れてくるというだけなんですよ。藤原竜也が演じた清丸のあの目、それに大沢たかおがマジ切れするわけですよ。それに対して、藤原竜也がさらに狂気化する。その清丸の隠していた本心が、あの笑いです。こういうのって興行的にどうなんでしょうね。やっぱり難しいのかな。客層は誰なんだろ」
藤原「ファミリー(笑)」
三池「そうだね。"子どもたちにトラウマを"っていうのが最近のポリシーだし」
藤原「あはははは! すばらしいですね(笑)」
三池「映画って怖いぜ、あなどれないぜというのを植え付けたい」
藤原「映画なめんなよ?って」
三池「そうそう(笑)。すげー! やばい!って思わせたいんですよね」
(C)木内一裕 / 講談社 (C)2013映画「藁の楯」製作委員会