――今回の作品は何が正しくて、何が間違っているのかを考えさせる作品になっています
周防監督「実際、今回の映画には正義なんてどこにもない。有罪や無罪というものは正義ではなく、そのときその国にある法律に沿った判断でしかないわけですよ。良い人、悪い人というのはあくまでも法律的な解釈に過ぎず、人としてどうかということではない。スポーツだって、ルールに反さなければ何をやってもいいのか? たとえば高校野球での松井秀樹選手の5打席連続敬遠。監督の理屈としては、ルールとして認められているし、勝つためにはもっとも有効な手段だったんだと思います。でも、それを実行したとき選手に与える影響などを考えれば、あそこで敬遠を選んで勝つよりも、堂々と勝負をして負けたほうが得るものが大きいと思う監督だっていると思います。ルールに反していないから非難できないということではなく、もっと違う角度からもその行為について考えることができるはずなんですよ」
――ルールはあくまでもルールであり、本質とは異なっている?
周防監督「結局、裁判の有罪、無罪の判決は、あくまでも法律に照らしての話。人として許されるかどうかとは全然ちがう次元にある。そこにみんな自覚的であってほしいと思います。あと、皆さんが誤解しているのは、裁判が真相の究明をする場所であると思っていること。絶対的な真実の究明なんてできないですよ。過去に起きた出来事をその場にいなかった人間が判断する作業なんですから。具体的な証拠があるといったって、それはあくまでも誰かが何かをしたということの推測の根拠にしかならない。だから裁判は真実を明らかにする場ではないということをきちんと理解しておかないといけない。裁判が明らかにするのは、『それでもボクはやってない』の最後でも言ったように、被告人が有罪か無罪かを決めるだけのこと。その有罪、無罪も正しいか正しくないかではなく、その行為が法律に違反しているといえるかどうか。それだけなんですよ。そこを僕たちはあいまいにしているというか、あまり考えていない。『終の信託』の最後で裁判の結果を明らかにしているのは、それを言わないと、はたしてあの女医さんは有罪なのか無罪なのか、法律を基にした判断について、観客が思いを巡らしてしまう。そうじゃないんですよ。思いを巡らせてほしいのは、この行為が法律に反しているかどうかではなく、人として許されることだったのかどうか、それを考えてほしい。だからあえて裁判の結果を知らせたわけです。『こういう判決ですけどどうですか?』 そんな投げかけ方をしたかった」
――さて今回、『終の信託』がBlu-ray/DVDとなってリリースされるわけですが、あらためて観てほしいポイントはありますか?
周防監督「おそらく映画館で観ているときにはあまり気がつかないと思うのですが、光です。取り調べのところなどはわかりやすいのですが、ライティングで本当にいろいろな光を作りだしています。もちろん窓の外の日の光も変化するんですけど、それだけではなく、部屋の中の明かりに当たったり当たらなかったりということを芝居の中でやっているんですよ、大沢さんが。照明技師さんが大沢さんの動きに合わせて明かりを作り、セリフによってはわざと外したりしている。さまざまな映画的工夫の中でも、特にライティングなどはBlu-rayやDVDで観ると、すごく細かくチェックできると思います。実は映画にはそういった工夫がたくさんされているので、そういった視点で観ていただくのも面白いと思います。あと曇天が多い映画なんですけど、これはあまりコントラストを強くしないでしっとりとした画を作りたかったからで、せっかくBlu-rayで観るのなら映画的な画というものにも注目してほしいです」
――それでは最後にファンの方へのメッセージをお願いします
周防監督「終末医療や検察の取り調べといった重いテーマの映画です。ただ、僕の中ではかなり映画的な工夫をして、人と人が向き合ったときに生まれる空気そのものを映像として作り上げることに腐心した作品になっているので、映画として楽しむ、という点でも深く味わっていただけたらなと思います。テーマだけではなく、映画そのものとして楽しんでいただけたらうれしいです」
――ありがとうございました
『終の信託』のBlu-ray/DVDは2013年4月19日発売。4月24日には、周防正行監督と主演の草刈民代が出演するDVD & Blu-ray発売記念トークショー&サイン会が下記2会場で開催されるのでこちらもチェックしておきたい。
会場 : 銀座山野楽器 本店7F イベントスペース "JamSpot"
日時 : 2013年4月24日(水) 13:00~
参加方法ほか詳細はこちらのサイトにて
会場 : 代官山蔦屋書店 1号館2階 イベントスペース
日時 : 2013年4月24日(水)18:30~
参加方法ほか詳細はこちらのサイトにて