数学を活用してメイクやファッションを魅力的に

数学検定協会理事・事務局次長の高田忍氏の説明によれば、進路が文系・理系で「数学から離れられる」ようになってくる時期の高校2年生を境に、同協会が実施している「実用数学技能検定(数学検定)」では女性の受検比率が男性に比べて低くなり出し、特に社会人に至っては7割以上が男性という傾向だそうだ。

筆者自身も四半世紀前の高校時代を思い出せば、共学ではあったが、選択教科で、数学の科目によっては女子は圧倒的に少ないか、いないのどちらかであり、「女子は数学が嫌い」というのは肌で感じた思いがあるが、世の中の一般的な傾向としても女性にとって数学はアレルギーがあるようである。そこで同協会としてはそのアレルギーを払拭するため、いかに数学が身近であり、いろいろと使い道もあるし、とても面白い存在であるかを理解してもらうことが重要であると考え、その第1弾として、今回のイベントの開催を考えたというわけだ。

よって、今回は学校や塾、予備校などで習うような数学に関しての「受験を突破するため」もしくは「成績を上げるため」に知識を学ぶのではなくて、「日常生活で使える」と同時に、「日常の中に潜んでいる」数学が桜井氏によって紹介された。それによって数学の魅力を伝え、女性の数学に対するイメージの変換を目指す第1歩と位置づけているというわけだ。

というわけで今回のイベントは、桜井氏による学校では学べない魅力的な数学の世界を題材にした講演をメインに、(1)モデルのファッションやメイクがなぜ魅力的に見えるのかを数学的法則でひも解く、(2)自分をかわいく見せるファッションができているか、写真に撮って検証、(3)日常で見つけた「かわいい」、「きれい」、「美しい」を数学で解き明かすという体験をし、という構成で行われた。

その桜井氏の講演は、タイトルが「数学で美人になる!? ひとはHakaraずにいられない」である。学校で勉強として習う数学しか知らず、それに苦手意識を持っていた女子中高生にとってはまったく違う世界が見られて、インパクトが大きかったはずだ。なにしろ、のっけから「数学は難しいものであって決して簡単なものではない」である。

おそらく、大半の子たちが「数学はこう考えれば簡単なんだよ、楽しいものなんだよ」的な解説をしてくれるものと期待していたのではないかと思うので、少々面食らったはずだ(筆者も「難しい」宣言には驚いた)。ただし、数学がそれ以上に「楽しいもの」であることも間違いなく伝わる内容だったと思うので、最後は「数学は難しいんだけど、それ以上に面白い」という認識に至ったのではないだろうか。それは、最後に掲載した、参加者の子たちの数学についてわかったことを記した言葉を見てもらえば、どれだけ考え方が変わったかがわかるはずである。

講演は2部構成で行われ、第1部は「測る」を、第2部は「計る」を題材に行われた。「Hakaraずにはいられない」とは「測らずにはいられない」と「計らずにはいられない」のダブルミーニングのためにローマ字表記になっているのである。

身近なところに存在する「黄金比」

というわけで第1部は、「フィボナッチ数列」からスタート。フィボナッチ数列とは、最初の2つの数字は0と1で、以降は、前の数字2つを足した数が続く数列のことで、0、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、144…と続いていくものだが、これが何と関係があるのかというと、美しいものの中に潜む数字に関係がある。このフィボナッチ数列は大きくなっていくと、連続する数字を比較した時、後の数字は前の数字のおおよそ1.6180339887…倍に近づいていく。この1.6180339887…をφといい、1:φは「黄金比」と呼ばれている。

この黄金比や、縦1:横φの「黄金長方形」が、美しいと感じるものの中に潜んでいることが多いという話は、ご存じの方も多いことだろう。「モナ・リザ」やギザのピラミッド、パルテノン神殿、指の骨の比率など、自然のものから人が創り出したものまで至る所に存在しているのだ(画像7)。女性ファッション誌の表紙を取っても、バランスがいいと感じる部分の比率が黄金比だったり、収まりのいいスペースが黄金長方形だったりする。日本の標準サイズの名刺も黄金比に近い(91mm×55mmで、1:1.654545…)。ヒマワリの花(種)のらせんの描き方も、実は黄金比と関係のある黄金角である(画像8)。あのようにギッシリと詰め込んで並べるには黄金角じゃないとダメなのだ(1度減っても増えてもああはならない)。

画像7。全員が全員、厳密に黄金比というわけではないが、指の骨の長さもほぼ黄金比である

画像8。ヒマワリの花(中心の黒っぽい種のできるところが花)の並び方は、黄金角

なお、間違えてはいけないのは、「美しいものの中に絶対に潜んでいる」というわけではないこと。黄金比とは関係のない美しいものだってたくさんあるのだ。逆に、黄金比を入れれば絶対に美しくなるかというと、そうとは限らない。よって、ダ・ヴィンチがモナ・リザの中に黄金比を潜ませた上で歴史的な名画にできたのは、やはり天才の中の天才という希有な存在だったからなのである。