対局開始直前の様子。傾いて置かれたノートパソコンがシュール

プロ棋士先鋒、阿部光瑠四段

第一局でプロ側の先鋒を務めるのは、若干18歳の新鋭プロ阿部光瑠(あべこうる)四段だ。

対局開始前の阿部光瑠四段。優しそうで、ちょっと頼りなくもみえる少年のようだが、実は将棋界きってのエリートである。ニコ生では「コール! コール!」というコメントが乱れ飛んでいた

18歳の新鋭と聞いて、まずは駆け出しのプロで様子見か、負けても言い訳しやすいしな……と思ったらこれが大間違い。阿部四段がプロ棋士になったのは2年前、16歳のときで、プロの歴史の中でも過去7番目の若さという非常に優秀な記録である。阿部四段は将棋界のエリート、未来を担う逸材。プロ側は初戦から本腰で勝ちにきていると言える。

コンピュータ将棋先鋒、習甦(開発者:竹内章氏)

対するコンピュータ側の先鋒は、2012年5月に行われた世界コンピュータ将棋選手権5位の「習甦」(しゅうそ)。開発者は竹内章氏である。

竹内家の家紋の入った羽織はかまの和装で盤の前に座る竹内氏。コンピュータソフトの開発者と聞いて、なんとなく"それっぽい人"を想像していたのだが実に男前だ。なんだかちくしょーである

「習甦」の名は、プロ棋士の第一人者として知られる羽生善治三冠から勝ち星を積み重ねたい、という思いで付けられたという。なるほど、漢字の中に「羽」と「生」の文字が潜んでいる。それにしても、あんな普通のノートパソコンで戦うのか? と思ったら、ノートパソコンは入出力をしているだけで、本体は大型のハイスペックのコンピュータである。

竹内氏が盤の前に座っていたのは開始から30分ほどで、以降は代理人が座って駒を動かし、竹内氏はこちらの本体の前で操作をする

習甦について情報を集めてみると、今回の代表を務める5台のコンピュータの中では異色のソフトだという。他のソフトと比べて定跡データに頼る割合が少なく、評価関数と呼ばれるコンピュータが自力で指し手を決定するプログラムに力を入れている。また、攻めよりも受けを得意としており、これも将棋ソフトとしては比較的珍しい部類だという。コンピュータ将棋は強くなっただけでなく、もはや個性まで持ち合わせていることになる。コンピュータ将棋、恐るべし。

参考評価担当はボンクラーズ

今回の対局では、コンピュータ側が局面をどのように評価しているかの参考とするため、対局中のソフトとは別のソフトで局面の解析が行われ、その評価値がリアルタイムで公表される。評価を担当するソフトは、あの「ボンクラーズ」である。

ボンクラーズは2011年の世界コンピュータ将棋選手権の優勝マシンであり、故・米長邦雄永世棋聖を破ったソフトである。現在は後継機が開発されており、そのマシンは「Puella α」と名を変えて、今回の戦いの第四局に登場することになっている。

今回は、ボンクラーズの評価値と、控室に訪れたプロ棋士の見解を随時比較し、その相違にも注目していきたい。……続きを読む