プリアンプは「Mark Levinson No32」(写真上と下)。オーディオ回路と電源回路をセパレートにした2シャーシー構成で、ソースに記録された音を忠実に再現するため、左右の干渉を最大限抑えた"デュアルモノラル"となっている。このクラスになると、単に"ステレオ"という呼び方では安っぽく感じられてしまい、むしろ"モノラル×2"という思想を表す言葉のほうが高いクオリティをアピールできるのだそうだ。真ん中の段にあるのがSACDプレーヤー「Mark Levinson No512」

パワーアンプは「Mark Levinson No532」。EVEREST DD67000の巨大ウーファーを動かす(文字通りに前後に動かして音を出す)にはこのクラスのパワーが必須なのだという。数万円のアンプでは太刀打ちできず、低音が出せないのだそうだ。音響の世界にも力技ってあるんだね

前置きが長くなったが、ともかく、聴こう。

最初は、ドラムとトロンボーンのセッション。明るいリスニングルームではあるが、まるで闇の中から響いてくるように、実在感を伴ったドラムのソロが浮かんできた。

しばらくして、トロンボーンが加わる。そこに実際にドラムがあり、トロンボーンがあるかのように、音の位置がはっきりとわかる。ハイハットの「ガシャン」という音は、「ガ」というアタックの後を、「シャン」がしっかり立ち上がって追随していた。

「3D的に聴こえますよね」と堀さん。なるほど、そういう表現の仕方があるのか。たしかに立体的だ。

これもすべて、スピーカーを中心としたシステムが素晴らしいのは言わずもがなだけれど、それ以前にソースが定位をきちんと設定して録音されており、その作者の思いを忠実に、等身大で出しているということだろう。

ピアノの小曲では、いまそこで音が踊っているようだった。抜ける音だけでなく、くぐもる音も当然ナチュラルに再現している。ホールで、客席で、しかも前のほうの席で聴いているような感覚があった。一方、タンゴはアコーディオンのキレがものすごい。まるで体を切り刻まれるかのように、スバッ、スバッとキレている。やさしいピアノから切れ味鋭いアコーディオン、あるいは不良っぽいドラム、老いた渋みが漂うトロンボーンまで、ソースの音の味と定位を、まさにそれぞれの原音に忠実につかみ出して、聴く者の前に提示してくれる。

続いてビオラ、サックス、ウッドベースがスイングする現代録音のジャズや、教会で録音した人間の声とパイプオルガンのミサ曲を聴き、最後に大型のシステムだからこそ満喫できる大編成のオーケストラサウンドに入った。楽曲はムソルグスキーの「はげ山の一夜」と、ホルストの「惑星」から「ジュピター」。これはもう、コンサートホールで聴いているような実感さえある。日本珍百景も平原綾香もビックリの大迫力だった。

音楽を"きちんと"聴くには、それ相応の環境が必要である。

環境とはこの場合、音を鳴らすシステムと、音を響かせる空間と、そして音に臨む人間の心構えだ。そう、機械と場所だけでなく、聴く自分の心のセッティングも、大切なのである。

音は、趣味の世界。何が良い何が悪いではなく、肌に合うかどうかだ。ビンテージが合う人もいれば、圧縮された音を携帯音楽プレーヤーで聴くのが合う人もいる。それらは別の世界の楽しみ方であって、聴く人間のスタイル、自己主張でもある。

作り手が意図してこだわりの上に録音された原音を、忠実に、音の粒とそれが漂う空気を等身大で感じるスタイルが好きな人にとっては、今回試聴したこのシステムこそはまさにエベレストのごとき最高峰ツールだろう。

とはいえ間違いなく、僕には買えないし、このシステムの力をフルに発揮させる部屋も用意できない。

というより、そもそも自分のスタイルからして、僕は買わないと思う。

ただ世間には、いろいろとスゴい人もたくさんいる。実際、「具体的な数を公表することはできませんが、みなさんの想像よりは売れていますよ」と堀さんは言う。世の中、ほんと奥が深い。

「魅惑の超高級家電」バックナンバー
第1回 84V型のドデカサイズ! ソニーの4K「ブラビア」を体験してきた
第2回 焦点距離800mmの超迫力望遠! キヤノンの白レンズを覗いてきた