デジタル時代になって、こだわりを失っている人が多い気がする。気のせいだよな、きっと気のせいだよな!……もちろん実際はそうではなく、こだわりの形が変わってしまったのだともいえるのだけれど。そう、デジタル時代とはいえ、こだわっている人はまだまだいる。そういう人のための高級ツール、超プレミアムスピーカーの音を生身で体験してきた。
2本で600万円を超えるコンシューマー向け最高峰スピーカーと対面
リスニングルームに入る。勝手にもっと狭い部屋を思い描いていたけれど、実際はかなり広々として、何十畳もあるような開放的な空間だった(もちろん窓などが開いているわけではない)。その広い部屋の奥に、超高級システムがでーんと構えている |
「いいスピーカーで音楽を聴くということは、レコーディングした人間が意図した音質に忠実に音楽を聴ける可能性が高まるということなんです」。今回、超高級スピーカーで音を聴かせてくれるハーマンインターナショナルの堀良一さんは、のっけからそのように語った。
「だから、語弊があるかもしれませんが、携帯音楽プレーヤーやPCで聴くのに比べて、どんな音楽でも飛躍的に"いい音"で聴けるというわけではありません。ただとにかく、作る側の意図に限りなく近づけるということです」。なるほど、そういうものか、と、まだこの時点ではあまりピンときていない。
同社のリスニングルーム(試聴室)に入ると、今回お世話になる超高級システムが文字通り鎮座していた。まずは本日の主役、スピーカー。JBLブランドのフラッグシップである「JBL Project EVEREST DD67000」だ。EVEREST(エベレスト)の名が表しているように、最高峰の逸品である。標準価格はというと……なんと315万円! しかも1本の値段だ。当然2本必要であるからして、合わせて600万超え。これほどの高級品なのだから、音楽家やミュージシャンが使うプロフェッショナル仕様と思われるかもしれない。でも、ちがう。「これはコンシューマー向けのフラッグシップです」と堀さん。驚きだなぁ。
スーパー高級システムで楽しむのはクラシックとジャズ?
プリアンプは「Mark Levinson No32」。この時点で生産完了品だったが、堀さんいわくマーク・レヴィンソンの顔ともいえる製品で、販売していた当時の標準価格はこれまた315万円とのこと。おぉ、すでに1,000万円に近づいた。続いてパワーアンプは「Mark Levinson No532」(標準価格:294万円)。最後にSACDプレーヤーが「Mark Levinson No512」(標準価格:220万5m000円)。〆て、1,459万5,000円……加えてケーブルも高級品で、合計額は1,500万円を突破した。
試聴を始める前に、堀さんが念を押す。「いかにピュアに信号を伝達して、ハイクオリティな音を出すか。それを突き詰めたのがこのシステムなんです」。要するにこういうことだ。ソースに入っている信号をそのまま忠実に、スピーカーを通して原音再生する。つまり、このシステムの能力を最大限享受するには、ソース自体もこだわりを持って録音されている必要がある。
そうなると、やはりジャズやクラシックがメインターゲットになる。ポップスは圧縮データを携帯音楽プレーヤーで聴いても破綻なく聴けるように作ってあるそうだから、わざわざこの壮大なヒマラヤ山脈で聴くまでもないというところだろう。いや、ないとまでは言わないが、ソースに忠実に再生するので、ソースによりいい音になるわけではない。
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