では絵師としてイラストを描き、収入を得ることがどれだけ難しいのか。かつて岸田メル氏はライトノベルの挿絵のギャラについて発言し物議をかもしたことがあるが、それによると「ライトノベルの挿絵は基本的に買い取りで、だいたい10万円~30万円の間に収まる」のだという。さらに、ライトノベルは一年間にそう多く出るわけではないため、一人の作家につき一人のイラストレーターが担当する冊数は平均3冊程度となり、これではとても生活していくことはできない。
ライトノベルのイラストは「絵師を目指す人にとっては憧れの仕事の一つ」だが、「華やかだけど儲からない」のが現状なのだ。
では具体的にどうやって儲けていくのか。岸田メル氏は「ぶっちゃけるとぼくの場合は同人誌。二次創作についてはぼくはやってないし、話し始めると終わらなそうなのでやめておくが、オリジナル作品なら問題ないし、構造もシンプル」と述べ、これに佐藤氏も「出版社関係なく稼ぐ場があった方がいい。出版社に依存するとつぶれることがあるので」と同意を示した。
そうした同人誌などを販売する場として提供されているのが「DLsite.com」だ。しかし、同サイトの運営に携わる高原氏によると、SNS等で人気があっても、販売サイトではまったく売れなかったり、辛辣なコメントがつくこともあるのだという。
そうした声に傷ついてしまうクリエイターに向けて、高原氏は「SNSはファンや作家さん同士が交流する場だけど、販売サイトはそうではない。販売サイトで厳しい言葉をもらったらSNSでやさしい言葉をかけてもらうなど、バランスよくやっていくのがいいのでは」とアドバイスする。
今回出演した3名の作家も、もちろんネットの批判と向き合っている。特にネットが普及する以前にデビューし、現在まで活躍を続けている西又氏は、「若いころはネットに間違ったことが書かれているのを見るといちいち説明したくなったが、それをやると火に油を注ぐのでやらないことにしている」と述べ、「最初は寝込んだりしたこともあったが、いい声よりも悪い声の方が耳に届きやすいだけで、根底には応援してくださっている方がいるので、その方のためにがんばっている」と自身の心構えについて語った。
事ほど左様に、ネットでの知名度や人気と、作品が売れるかどうかは必ずしもリンクしないのが現状だ。しかし、そうはいってもネットでの知名度があればお金は後からついてくると岸田メル氏はいう。
「とにかく作品を色々なところに発表する時期は必要。最初はお金は二の次で考えた方がいい。ぼく自身金額のことはあまり考えてなくて、仕事を選ぶ基準は自分にどういうメリットがあるか。額が少なくても多くの人に見てもらえるならいいとか、額も少ないしあまり多くの人に見てもらえなさそうでも、自分がすごくやりたいと思ったら請けることもある。ソーシャルゲームで絵師が買い叩かれるという話が最近はあるが、あくまでもぼく個人の考えとしては、たとえ5,000円が1万円になったってどうせ食っていけないんだから、いっぱい仕事をすればいいと思う。そこから有名になったら交渉すればいい」
岸田メル氏がそう語る一方で、お金のことについてはどんどん交渉すべきとの持論を展開するのが佐藤秀峰氏だ。
「ぼくはお金が大好きなのでガンガン交渉します。講談社はこれくらい、小学館はこれくらいなんだけど、どれくらい出しますかとか。上げてくれるまで描きませんとか。具体的には『ブラックジャックによろしく』を連載していたとき、原稿料がモーニングの作家さんの平均額より少なかったので、アップしてくれるまで描きませんと交渉して3カ月描かなかったことがありました」
この佐藤氏のコメントには、ニコ生視聴者から「大御所だからできることでは」との声が上がったが、佐藤氏は「違います。交渉しないからいつまでも上がらないんです」ときっぱり。ただし、「お金は大好きだけど、有名人とか読者とかの似顔絵は無料で描いています。タダ働きもどんどんするし、ビジネスの話になったらそこはちゃんと交渉するんです」とのことで、ビジネスとそうでない部分とのメリハリをつけることが大切だと主張した。
これに西又氏は、「自分をプロデュースする力は必要。無償で描くことはなかなかないことだが、金額で仕事を選ぶわけではない。作品が世に出たときにいかに自分をアピールできるのかといったメリットを考えるべき」と述べ、セルフプロデュース力の大切さを語っていた。