サードパーティ製ながらも公式採用された「GEOS」

さて、本連載の主題であるOSに目を向けてみましょう。Commodore 64は特定のOSを搭載しておらず、電源を入れるとBASICが起動する、当時としては一般的なコンピューターでした。Microsoftからライセンスを受け、Commodore 64には「Commodore BASIC 2.0」を搭載。もっとも正しいバージョンはPET 2001にバージョン1.0を搭載し、後期版となるPET 2001sにバージョン4.0を搭載していることを踏まえますと、"4.0以降で2番目のリリース"という意味で付けられたのでしょう(図11)。

図11 Commodore 64の「Commodore 64 BASIC 2.0」

改めて述べるまでもなく、BASICは開発言語に部類されるためOSではありません。数多くのサードパーティ製OSも存在しますが、Commodoreが採用したOSは「GEOS」だけです。そもそもGEOSは「Graphic Environment Operating System」の略で、Berkeley Softworks(バークリー・ソフトワークス。後のGeoWorks)が開発したGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)採用のOSです。当初は単独のソフトウェアとして販売されていましたが、1986年に発売されたCommodore 64Cに付属したため、他のOSと比べて扱いが異なりました。

ワープロソフトの「geoWrite」やペイントソフトの「geoPaint」などを含み、現在とは比べものにはなりませんが、文書作成や画像編集が可能です。またバージョン情報ダイアログボックスには、Berkeley Softworksの創設者であり、GEOSの開発に携わったBraian Dougherty(ブライアン・ドウアティ)氏らの名前が確認できました。ご存じのとおりGEOSはCommodore 64専用のOSではありません。Apple IIやCommodore 128用もリリースされています。当時のパーソナルコンピューターに搭載されていたOSが、MS/PC-DOS、CP/M、Mac OSであることを踏まえますと、GEOSは大きなシェアを誇っていました(図12~15)。

図12 Commodore 64上で動作する「GEOS」。開発者であるBraian Dougherty氏らの名前が確認できます

図13 Applicationディスクには電卓を始めとする各種アプリケーションが用意されています

図14 2003年にフリーウェアとしてリリースされたApple II版のGEOS

図15 Commodore 128向けにもGEOSはリリースされていました。画面はドイツ語版です

その後社名変更したGeoWorksは、1990年にPC/AT互換機向けGEOSとして「PC/GEOS」、別名「GeoWorks Ensemble(ジオワークス・アンサンブル)」を発売しています。当初は「OS/90」という名称で1990年代を制覇するOSとして名付けられました。同OSはスケーラブルフォントやマルチタスクなど従来の8ビット版は全く異なる内容でしたが、フルアセンブラで開発されていたため、同時期のWindows 3.0よりも高速に動作したと言われています(図16)。

図16 1987年当時のBerkeley Softworksが発行していた「GEOS NEWS」。写真は同社CEOであるDougherty氏と思われます

しかし、PC/GEOSはMS-DOS上で動作する仕組みを採用していたため、単独のOSとして一定のシェアを得るまでに至りませんでした。元GeoWorks CEO(現Breadbox Computer Company)は「Microsoftがハードウェアベンダーに、GeoWorksを採用するとMS-DOSの供給を取り下げると圧力をかけていた」と述べています。その一方でOSの普及はキラーアプリケーションが欠かせませんが、PC/GEOSの開発環境は比較的高価だったため、大きな普及には至りませんでした。1993年にカーネルバージョンを2.0にあげた「GeoWorks Ensemble 2.0」を発売し、翌年にマイナーアップデート版の「Geoworks Ensemble 2.01」を発売して一度幕を閉じます(図17~18)。

図17 手元に残っていた「Geoworks Ensemble 1.2」のセットアップ画面。残念ながら正しく動作しませんでした

図18 こちらは「Geoworks Ensemble 2.0」のスプラッシュ画面。エラーが発生し、同じく起動しませんでした

その後のGeoworksは開発に集中し、1996年にNewDealから「NewDeal Office」という名称で販売されるようになりました。残念ながらこの時代のGEOSはWindows OSの影に隠れあまり目立つことはなく、2003年にNewDealが廃業。Geoworksが持つGEOS関連ライセンスはBreadbox Computer Companyが独占利用契約を結んで、事実上買い取ることになります。PC/GEOSバージョン4に当たる「BreadBox Ensemble」は2001年にリリースされましたが、オフィススイートやWebブラウザーなどを備え、一つのOSとして完成度は一定の水準をクリア。しかし、Windows OS上動作するBreadBox Ensembleのアドバンテージは既にありません。2009年8月に最新版がリリースされていますが、話題にも上らないのが現状です(図19~20)。

図19 「BreadBox Ensemble」はWindows OS上で動作し、独自の使用環境を提供しています(公式サイトより)

図20 GEOSユーザーには手になじんだGeoManagerが味わい深いでしょう(公式サイトより)

冒頭で述べたとおりCommodore 64は、多くのサードパーティが開発したOSが存在し、GEOS以外にもRichard A. Leary氏作の「DOS/65」やDaniel Dallman氏が手がけるLinux「LUnix」、Adam Dunkels氏がシンプルなGUI環境として作成した「Contiki」など数多くのOSが現在も開発され続けています。もちろん現在のコンピューターを使った方が利便性も高く、効率もよいのは百も承知でしょうが、ここまでユーザーに愛され続けたコンピューターは類を見ないでしょう。当時盛り上がった熱気の一端でも感じ取って頂ければ幸いです(図21~23)。

図21 Commodore 64上で動作するDOS環境「DOS/65」

図22 Linuxの基礎実装をCommodore 64上で実行する「LUnix」

図23 独自のGUI環境を提唱する「Contiki 1.2」

「GEOS」の紹介は以上です。ナビゲーターは阿久津良和でした。次回もお楽しみに。

阿久津良和(Cactus

参考文献

・DIGITAL RETRO/Gordon Laing(トランスワールドジャパン)
Wikipedia
・パーソナルコンピュータを創ってきた人々/脇英世(ソフトバンククリエイティブ)