MicrosoftのDell支援は成功に至るか

さて、今回のDellの株式非公開化にあたって興味深いのが、同社のプレスリリースに名を連ねるMicrosoftの存在だ。本件に対してMicrosoftは、20億ドル(約1,800億円)という巨額の融資を行い資金協力を行っている。同社はプレスリリースを発表し、「PC全体の長期的な成長にコミットするため」と投資理由を説明し、「Microsoftのプラットフォーム上でデバイスとサービスを開発し、ビジネスをけん引するパートナーを支援する」と自社の姿勢を明らかにした。

だが、同社の発言は20億ドルという巨額の投資を行う理由としては曖昧だ。ここで思い出すのが同社初の自社製コンピューターとなるSurface RTである。本稿が掲載される頃にはIntel製プロセッサを搭載したSurface Proも海外で発売されるが、同社としては米国内でリファレンスモデルを製造できる企業を保持したいと考えているのではないだろうか。Surface RT/Proを実際に製造している業者は不明だが、Microsoft社内で生産ラインを抱えているとは考えがたい。Microsoftとしては、前述したタブレット型コンピューターの台頭をにらみつつ、自社の影響力を行使できる企業としてDellを選択したのだろう。

その一方でMicrosoftが他社に出資を行った例といえば、1997年8月に当時Appleに復帰していたSteven Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏が、Microsoftと結んだ特許のクロスライセンスと業務提携に伴う資金提供ぐらいしか思い出せない。提供額は非公開だが、当時1億5,000万(約135億円)以上といわれていた。当時のMicrosoftは、コンピューター市場における独占的立場に位置し、翌年の1998年には米司法省が実際に提訴している(2011年5月に終結)。

この歴史的和解をきっかけにAppleは過去の負債を清算し、Jobs氏は同社の再建に成功した。そのAppleがiPhoneでスマートフォン市場を、iPadでタブレット型コンピューター市場を席巻しているのは皮肉な話だが、本ケースとは異なり、Dellに対する支援は、過去に同社が保持しなかった顧客管理能力が大きいのではないかと推測する。

残念ながらDellが製造するコンピューターは他社と異なり、特定のアドバンテージを持っていない。だからこそ法人など大多数の顧客に対する販売能力でシェアを伸ばしてきた。このようにDellが得意とする個人・法人に対する顧客管理のノウハウや顧客情報は、Microsoftがこれまで保持していない能力の一つだ。Windows ServerとWindows Azureを組み合わせた環境を「Cloud OS」というブランド名で、今後のクラウドコンピューティングに注力しているMicrosoftだからこそ、Dellに20億ドルを融資したのだろう。新たなパートナーを得たMicrosoftがどこに活路を見いだすのか注目に値する。

阿久津良和(Cactus