パームレストのスペース確保に苦心
スライド&チルト機構の採用は、早い段階で決定していたものの、そのなかではいくつかの大きな改良が加えられていった。
ひとつは、ノートPCとして利用する際のディスプレイの位置である。
当初の設計では、キーボード側となるボトムケースの半分ぐらいの位置にディスプレイが立つ構造となっており、キーボードだけでスペースが埋まってしまい、タッチパッドやパームレストのスペースが確保できない状態だったという。
そこでディスプレイの位置を極力後ろ側にずらし、ノートPCとして利用する際のキーボードスペースを広く確保した。
「ノートPCとしての使い勝手を維持するのであれば、パームレストのスペースは必要不可欠。これをどれぐらい確保できるかといった点に苦心した。また、パームレストのスペースを確保できたことは必然的に、タッチパッドのスペースを確保することにもつながる。ノートPCとして使いにくいと言われるような状況は、絶対に回避したかった」と横手主務はその意図を語る。
設計変更の結果、45mmもの幅でパームレストのスペースを確保することができ、ノートPCとしての操作性を維持することができたという。
現場に行くたびに現れる新たな試作パーツ - 重ねられた改良
そして、ディスプレイ部を後ろにずらす設計変更、およびスムーズなスライド&チルト機構の駆動については、いくつかの工夫が凝らされている。
ひとつは、ディスプレイと本体基板を結ぶケーブルをいかにスムーズに収納するかという工夫である。
ディスプレイ部を後ろにずらし、そこからスライドさせてタブレットにするという構造ではディスプレイと本体とを結ぶケーブルにも一定の長さが必要になり、これを本体内にうまく収納するための構造が必要となる。
東芝では、独自にU字型で収納する仕組みを開発。これによって、ケーブルをスムーズに収納することに成功した。
また、ディスプレイ部をスライドさせる際に、試作段階では、左右の端に近い部分を片方だけ持ってスライドさせると、斜めに動いてしまうために途中で引っかかるという問題が発生。そこで、左右のヒンジ部をリンクバーと呼ばれる金具でつなぐことで、左右が同期した形で動く構造へと進化させることに成功した。
さらに、設計当初は、ディスプレイ部の背面左右に、スライドを補助する棒を用意し、それを輪が通るような仕組みとしていたが、ここにギアを配置し、この上を歯車がスライドすることで、よりスムーズなスライドを実現することができるようになったという。
これにより、それほど力を加えずに動き、またディスプレイのどの位置を持ってもスムーズなスライドが可能になった。
こうした新たな構造だけに、耐久性も気になるところだが、東芝では、これまでのPC製品同様の品質を維持していることを訴える。
また、稼働数が多くなるとみられるディスプレイと本体基板を結ぶフレキシブルケーブルも、先に触れたU字型の収納構造を採用に加え、素材や厚さ、幅、補強材の使い方などに工夫を加え、耐久面でも一定基準をクリアしているという。
横手主務は、「開発現場に行くたびに、異なった形状のケーブルが用意されていた。私が見たものだけでも約10種類の形状や素材が異なるものがあった。現場ではさらに多くの改良が加えられていたはずだ」とみる。
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