さて、多くのLCCがエアバス320など200席弱の航空機を主に使用しているのに対し、スクートでは大型のボーイング777-200を採用し、エコノミー370席、ScootBiz32席の計402席という大量の座席を用意しているのが特徴だ。
まずScootBizのシートだが、「Biz」の名は付いているものの、前後のシートピッチは38インチ(96.5cm)で一般的なビジネスクラスの座席にはほど遠い。エコノミークラスにはない電源コンセントが用意されているものの、2席の間に1つ設置されているだけなので場合によっては譲り合わなければならない可能性もある。羽田とクアラルンプールを結ぶエアアジアXではフラットベッドになるプレミアムシートを用意し、LCCでありながらまさにビジネスクラスに相当するサービスを提供しているが、ScootBizはあくまでエコノミークラスの枠内でのプレミアムサービスと考えておくべきだろう。
エコノミークラスでは、一般的に国際線仕様のB777では横9列のシート配列が採用されるところにもう1列詰めて、横10列とすることで座席数を稼いでいる。シートピッチも国際線機材としてはやや狭めの印象だ。しかし、日本航空や全日空などの既存大手航空会社でも、国内線のB777では10列配置はむしろ普通。成田からシンガポールまでずっと身動きが取れないとしたら狭さが気になるかもしれないが、スクートの場合は台北でいったん降機して体をほぐす機会があるので、特に大柄な人でなければエコノミーでも十分な座席サイズと考えられる。
なお、エコノミークラスでは追加料金を払うことで足元にもう少し余裕のあるシートを選ぶこともできる。プラス900円の「スーパー」シートは、機内各区画の前方に用意された黄色い背もたれの座席で、スタンダードシートに比べシートピッチが数cm拡大されている。普段国内線の飛行機に乗るとき、足が前の座席に当たって狭苦しいという人は検討してもいいかもしれない。プラス1,980円の「のび~る」(英語では「S-t-r-e-t-c-h」)シートは各区画の最前列に設けられている座席で、前の隔壁までの間で足を自由に伸ばすことができる。
機内食とエンターテインメントを有料で提供
アレルギーなど健康上の理由がある場合を除き、機内へは食べ物の持ち込みはできないルールとなっているほか、危険防止のため熱い飲み物の持ち込みも禁止だ。このため飲食は機内販売の利用が基本となる。価格はすべてシンガポールドル(1SGDは約65円)表示で、紙幣なら日本円も使えるが、おつりはシンガポールドルで返ってくる。クレジットカードはVISAとマスターカードが利用できるが、最低10SGDからとなっている。
食事は「チキンビリヤニ」「ビーフラザニア」「醤油チキン」「チキンクリームシチュー」などのメニューが用意されており、単品で10SGD(約650円)、飲み物・フルーツとのセットで17SGD(約1,100円)。味は好みによるところだが、ボリュームがそれほど充実しているわけでもなかったので、大食の人は空港で食事を済ませておくか、目的地でゆっくり楽しんだほうが良いだろう。このほか、サンドイッチやスナック菓子も機内で買える。飲み物は缶飲料やコーヒーが4SGD(約260円)、ビールが6SGD(約390円)など。
食事のメインメニューは4種類。このほかサンドイッチやスナックなども機内で購入できる |
今回はチキンビリヤニをセットで事前注文した。ただ、フルーツは都合がつかなかったのか、フリーズドライのリンゴチップスだった |
機内にテレビやスクリーンはなく、座席にもエンターテインメント設備は備え付けられていないが、タブレット端末などで映画やテレビ番組を楽しめる有料サービス「ScooTV」が提供されており、22SGD(約1,430円)でコンテンツ入りのiPadをレンタル利用できる。また、乗客が自ら持ち込んだiPad、Androidタブレット、ノートPCを利用して無線LAN経由でScooTVを楽しむこともでき、この場合はの料金は16SGD(1,040円)。なお、iPadの場合は搭乗前に動画再生アプリ(GOGO Video Plugin)をインストールしておく必要がある(機内でのダウンロードは不可能)。
台北市内からの早朝の足は?
成田から台北への初便が出発する前には、搭乗口前で就航記念セレモニーが行われ、スクートのキャンベル・ ウィルソンCEOらが挨拶。ウィルソンCEOはそのまま初便に同乗し、離陸後水平飛行に移った機内では、この日だけ乗客全員に振る舞われたシャンパンで乾杯を行ったほか、求められた記念撮影などにも気さくに応じていた。台北到着後もボーディングブリッジの出口に立ち、降機する乗客1人ひとりに感謝の言葉をかけていた。なお、スクートはLCCながらバスとタラップではなくボーディングブリッジを利用している。
中央で両手を挙げているのがウィルソンCEO。機内ではスクートの黄色いシャツに着替え、乗客から記念撮影を求められると気さくに応じていた。右隣は初便の運航を担当したロハン・チャンドラ機長 |
就航を記念して特別にシャンパンが振る舞われ、スタッフと乾杯。日本国内での認知が低いためか座席の埋まり具合はわずか2割程度だったが、台北から成田への便では9割以上が埋まっていた |
成田とシンガポールの間を乗り通す場合、荷物はそのまま目的地まで直行するが、乗客はいったん途中台北で降機する必要がある(台北ではパスポートコントロールを通る必要はない)。ただし、シンガポールからの帰りは冒頭で紹介した通り早朝の乗り継ぎ待ちとなるので、空港内のほとんどの店はまだ開いていない。6時くらいから一部の店は開き始めるが、場合によっては自販機の飲み物くらいしか買えない可能性もあることに注意。
また、台北市中心部から桃園空港までは30kmほど離れているため、台北から帰りの便に搭乗する場合、チェックイン締め切り時刻の5時50分に間に合わせるには、まだ暗い4時台に市内を出発する必要がある。この時間帯に使えるのはバスかタクシーのみだが、今回は台北駅から空港へ向かうバス(國光客運國光號)の始発を利用した。
このバスは4時30分に台北駅西のバスターミナル(台北西站)を出発するが、15分前にバスターミナルに着くと早朝便の利用者が既に列を作っていた。乗ってから知ったのだが、この日はたまたま空港へ向かう高速道路が工事で一部通行止めとなっており、台湾島の北西岸沿いの道路を走行した。チェックイン締め切り時刻に間に合うか少し不安だったが、ちょうど1時間で終点の空港第2ターミナルに到着し、事なきを得た。通常の走行ルートであれば空港まで1時間かからないだろう。車内にはまだ若干の空席があったので、出発直前でなければ満員で乗れないという心配は小さいと考えられるが、始発バスを逃すとタクシー以外では間に合わなくなるため、台北出発日の寝坊は厳禁である。
安心できるサービスレベルだが、価格はもう一声ほしい
「LCC」というと、あらゆるコストをギリギリまで削減することで低価格を実現する航空会社というイメージもあるが、今回スクートを実際に利用してみた中では極端なケチ臭さが見られる場面はなく、荷物の預け入れや機内食が有料というシステムさえ知っていれば、初LCCユーザーでも面食らうことなく自然に利用できるサービスレベルだと感じられた。乗務員も皆フレンドリーかつ落ち着いており、まだ新しい航空会社だが不安を感じる部分はまったくなかった。
その一方、運賃に関してはもうひとつインパクトがほしいのが正直なところでもある。シンガポールまで乗り通す場合でも、既存大手航空会社の価格差が1万円程度しかない日も多い。この程度の差であれば、マイレージ加算などのサービスなどがあり、途中台北での降機が不要な既存大手のほうが、飛行機のヘビーユーザーにとっては魅力的に見えるかもしれない。
台北までに関しても、例えば台湾の既存大手である中華航空(チャイナエアライン)では、45日前までの予約限定ではあるものの、燃油サーチャージ等の諸費用込みで羽田 - 台北(松山)往復3万円を切る運賃を一部の日に設定している。羽田や松山といった移動に便利な空港を利用でき、この中に荷物や食事の料金も含まれることを考えると、あえてLCCを選択する理由はかなり薄れる。特にこの成田 - 台北線はジェットスターグループやエアアジアグループも就航に意欲を見せており、価格競争は一層激化する可能性がある。「悪くはないが激安でもない」という立ち位置だと、サービス重視、価格重視の両方のユーザーを逃がしてしまう可能性もある。
ただ、年末年始のような超繁忙期でも現実的な価格に抑えられていることや、片道ずつ購入できるため旅行計画の自由度が広がるといったメリットは小さくなく、成田から台北、シンガポールに向けてLCCが就航した意義は大きい。新幹線で東京 - 大阪を往復するだけでも3万円弱かかることを考えれば、アジアの海外旅行はもはや国内感覚の価格帯まで落ちてきたと言えるだろう。東京に新たなLCCがやってきたことをまずは歓迎しつつ、今後スクートがアジアの空をどのように攻略していくのか、大いに注目したい。