その後登場した「FD」のクローンたち
残念ながら出射氏は2004年11月に逝去されましたが、「FD」がDOS時代に残した足跡の偉大さは語るまでもなく、その後のソフトウェアに大きな影響を与えました。Windows 3.xでは「ファイルマネージャ」、Windows 95以降は「エクスプローラ(Windows Vista以降はエクスプローラー)」によるファイル操作が可能ですが、DOS時代にファイラーを使ってきたユーザーが多かったため、DOSからWindowsに移行した後も、「FD」風のファイラーを求める声は少なくありません。数多くのファイラーが存在しますが、ここでは「FD」のクローンと呼ばれるソフトウェアをいくつかピックアップしましょう。
一つ目は白井隆氏作の「FDClone」。UNIX系OS上で「FD」風のソフトウェアです。1995年4月から開発が始まりましたが、単純に移植した訳ではありません。同氏の努力により「FD」に近づけるように開発を行い、実装に関してはすべて同氏のオリジナルで作成されました。バージョン1.0まではオリジナル版に近づけることを目標に作成していましたが、それ以降は同氏の独自アイディアが組み込まれるようになり、2002年1月にリリースされたバージョン2.0では、画面分割やシェル呼び出し機能などが加わります。
2008年5月リリースのバージョン3.0では、ネットワーク対応の強化を行い、2012年現在でも精力的に開発が続けられているのは、趣味でLinuxなどをインストールしたものの、Bashなどのシェル操作に不慣れなユーザーには心強い味方となるでしょう。また、PC-98x1シリーズやDOS/V版も存在します。DOS用ソフトウェアとして生まれた「FD」がUNIX系OSに移植され「FDClone」となり、そして再びDOS用ソフトウェアとして逆移植されるのは、面白い現象です(図04~05)。
二つ目は「jFD2」。Shunji Yamaura氏が開発しているJava環境向けのFDクローンです。「FD」に準じた操作性を維持しながら、仮想ファイルシステムによるネットワークに対応し、現状を踏まえた実装が行われたファイラーです。興味深いのはスクリプトによる拡張性。公式ページからダウンロードできるサンプルを見ると、一定条件を満たすファイルを指定フォルダーに振り分けるスクリプトや、選択したファイルのハッシュ値を計算して表示するスクリプトなど、日常的に使用できそうなものばかり。
「jFD2」はファイラーの域を超え、ソフトウェア上でさまざまな操作を実行する統合環境的な機能が備わっていると述べても過言ではないでしょう。同氏の説明では、Java SE 5.0(LinuxはJava SE 6 Update 10以上)を備えるWindows 2000以降やMac OS X 10.4以降を対象にしていますが、Javaの実行環境さえ備えていれば、さまざまなプラットフォームで動作するのが最大のキーポイントです(図06~07)。
そして最後はWindows OSを対象にしたFDクローン「WinFD for Windows(以下、WinFD)」。高橋直人氏が作成されたシェアウェアです。Windowsの特徴や操作性を踏まえながら独自機能を実装し、ロングファイルネームやマウス操作もサポートされました。また、拡張モジュールを追加することで、ドラッグ&ドロップやショートカット作成、クリップボードを併用したファイル操作なども可能です。
もっとも、2005年6月にリリースされたバージョン1.05b Build 619を最後に更新されておらず、Windows XPまでしか動作検証はされていません。本稿を執筆するにあたり、Windows 8上で実行してみましたが、短い試用期間の間では不可解な動作を起こすような現象に出くわすことはありませんでした(図08~09)。
このように多くのユーザーに愛用された「FD」は、DOSというプラットフォームが過去の存在になっても、その時代で稼働するプラットフォームに移植され、その姿を今に残しています。当時のファイラーを使っていないユーザーには、簡素な印象を与える「FD」ですが、そのシンプルな操作に裏付けられた利便性は実際に使ってみないとわかりません。機会がありましたら、是非その一片を感じてください。
ナビゲーターは阿久津良和でした。次回もお楽しみに。
阿久津良和(Cactus)
参考文献
・Wikipedia
・PDS白書/SE編集部(翔泳社)