三池崇史監督 |
――生徒一人一人と向き合って惨殺していく演技上での緊張感はありましたか?
伊藤:常にニュートラルな状態。無心でいました。サイコパスはこうでなければいけない。わかりやすく表現しなければいけないって思うと、自分の幅が狭くなってしまうような気がして、そこは恐かったからこそ裸になれたんだと思います。生徒役の新人の子たちは、特にプレッシャーだったと思うし、監督に怒鳴られる子もいれば優しく諭される子もいる。三池監督自身も人を使い分けて演出されていたんだと思います。監督は蓮実のように人を見抜く力があって、見透かされているような気がする。だから僕も裸でぶつかっていきました。5年ぶりの共演でしたがとても愛があり、ものの捉え方、人に対する接し方は"三池塾"で改めてストイックにたたきこまれた気がしました。
――映画では伊藤さんの肉体を前に出したセクシーなシーンも印象的でした
三池監督:もちろん魅力的な肉体を手に入れているので生かさないわけにはいかないなと。蓮実がアメリカに居たときはビジネスマンとしてスーツを着こなして、教師になったらさっぱりした飾らない姿でいた。蓮実がイメージしている人間の服を着ることによってこう見てもらおうという意図があったと思うんですが、それ自体が本来の蓮実にとっては邪魔な存在だったと思うんです。だから家にいると自然に脱ぐ。自分自身でいることが自然だと。それと、英語の教師にしては不必要な筋肉がついていること自体も映画の伏線として描かれています。それは何かのとき動物的に早く動かなければいけなかったり、強くなければいけないとか。その瞬間がいつ訪れるかわからないからいつも家で鍛えている。だから、ほぼ全裸という感じになりました(笑) でも、そういった背景があるのでいやらしくなくすごく自然に感じられたと思います。女子スタッフもだんだん慣れていってね(笑)
――生徒の死に際に人の本性がでるなと思いましたが、伊藤さんだったら蓮実にどう立ち向かうのでしょう
伊藤:潔く腹を切って死ぬべし(笑)「一命」につなげようと思ったんですけど違いましたね。どうするかな? 最初は先生がそんなことすると思わないから「見てきてやるよ!」って最初に行って「俺が警察とか呼んでくるよ! 任せろ!」といいながら一番に殺されるタイプかもしれないですね(笑) 死に際に「だろ?」って言いながら死んで生きたいです(笑) 僕はお調子者なので、そういう感じだと思います。
――映画のレイティング(年齢制限の枠、およびその規定)は意識して撮影しましたか?
三池監督:元々原作が持っている部分を、"PG12"(12歳未満の年少者には保護者の助言・指導が必要)にするためにはだいぶ印象を変えなきゃいけないなと思いましたね。でもバイオレンスを見せたいから蓮実を暴れさせるとすると成人映画になっちゃう。蓮実の行動を邪魔したり、否定したりできないし、生徒たちにも向き合っていきたいと思った。生徒たちの中には初めて映画に出演した子もたくさんいて、群衆の中だと自分がどこにいるかもわからない。自分で出来上がったものを見て、悔しい思いをする子もいるかもしれないけど、それぞれ必ず死ぬシーンの一瞬があると思うから、そこで自分の役らしく最後を形に残したかった。そこを隠すわけには行かないと思って、それが役者一人ひとりへの愛情が重なっていくと結果的にいつもバイオレンスにいきつくんだと思う。
――伊藤さんは『海猿』でのヒーローから一転、全く逆の悪役に挑戦することになったわけですが、戸惑いはありましたか?
伊藤:役者っていつも自信がなくて、もしかしたらできないかもしれない。って思うからこそ全力で取り組める、そういうことが大事だと思うんです。役者を始めて13年くらいになりますが、30代になってからの面白さというのも感じるようになって、40代・50代もしかしたら80代までずっと続いていく役者人生にまたいろんな面白さを感じられるのだろうと思うと本当に楽しみになってきました。自分が全力でエネルギーを出し切った作品をお客さんに見てもらっていろんなことを感じてもらうことの爽快さは、三池監督に教わりました。
ネガティブではない辛さを感じたり、昼夜逆転の撮影が続いてどうしても神経が高ぶっていたり、身体もものすごく疲れていて、それでも監督は役者もスタッフも時間すらも全てを使い倒すエネルギーの塊のような方なので(笑)、自分も同心に戻ってピュアな気持ちで作品に取り組めて、そこが本当に楽しいなと思いました。キャラクターについてのイメージも監督から言葉で伝えられることはなく、「蓮実を恐く撮るのも不気味に撮るのも僕の仕事ですからね」と言われてましたね。台本を読んだからといって理解できるキャラクターではなかったし、原作を丸写ししてもしようがない。映画をヒットさせよう! とか、明日の撮影のためにエネルギーを残しておこうとかそういった意識もせずに本当に心を裸にしてエネルギーをぶつけていけばいいんだという気持ちで、出し切れるものを出し切った。そういう気持ちが今回は必要だったんだと思っています。
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