伊藤英明が演じる、有能で周囲から絶大な人気を誇る高校教師・蓮実聖司が実は反社会性人格障害(サイコパス)であり、生徒、同僚など学園すべてを巻き込んだ恐るべき血塗れの大惨殺を起こす――貴志祐介原作・三池崇史監督の映画『悪の教典』がいよいよ11月10日(金)より公開される。

『悪の教典』および『悪の教典-序章-』で主人公・蓮実聖司を演じる伊藤英明(左)と三池崇史監督

その前日譚であり、もう1つの物語である『悪の教典-序章-』。現在「dマーケット VIDEOストア powered by BeeTV」で独占配信されているこの物語は、映画版が日常の崩壊を描いていることに対し、日常に潜む見えざる恐怖を描いている。舞台はアメリカ・ニューヨーク。伊藤が語っているように、蓮実という人間をより深く紐解く意味でも、映画とは別の恐怖を描いている意味でも、単なるサイドストーリーとして収めることはできない重厚な物語が展開されている。『悪の教典-序章-』、そして『悪の教典』。異なるアプローチで恐怖を描きながらも、同じ方角を指し示しているこの2つの物語を主演の伊藤、三池監督はどう見ているのだろうか、2人に話を伺った。

――原作は上下巻に及ぶ大作で、まずそれを2時間の脚本に落としこむということは、一筋縄ではいかない作業だと思いますが、いかがでしたか?

三池監督: 自分が読んでいた中で、中心とストーリーになる部分を残してそぎ落とす、という流れでやりました。原作はラストに向かって群像劇のような広がりを見せ、最後の部分だけ蓮実に集約させる感じだったんだけど、その部分をシンプルに、余計な映画的な物語をくっつけないで作りました。いろんなアプローチはあるのかなと思いましたが、今回はとにかくシンプルにすることが一番かなと。

――伊藤さんは二つの顔を持つ蓮実の演じ分ける立場、逆に三池監督はその演技について指導していく立場でしたが、特にそれぞれ意識されたことは何でしょうか。

伊藤:サイコパスという役は到底理解できない役ですが、原作を読んでいる中でどこかで"サイコパス"である、"殺人鬼"である蓮実を応援してしまっている感じがあって……蓮実はすごく純粋だし、動物的な本能を持っている。どう演じるかというよりは、三池監督やスタッフの前で心を裸にしてエネルギーをぶつけようと思いました。(今回は携帯電話上で見るドラマでもあり)スクリーンサイズから携帯サイズで視聴するという環境で、どう見られるのかというところを意識して、小さな画面だから誰が見てもわかりやすい作品に仕上げたいとは考えました。しかし撮影が終わり、この作品はドラマ的な誰もがわかる作品じゃなくていいんじゃないかなと思って――結局そういう意識はせずに演じていましたね。単なる携帯ドラマのくくりからは外れ、とてもいい作品になった手応えがあります。

三池監督:蓮実のポイントは二面性。普通のキャラクターだと朝と夜で気持ちの変化もあるし、ニュアンスも変えていかなければいけないけど、蓮実はとにかく2つの顔をごく自然にこなしていくて、彼は人間だけが持っている共感能力という点だけが人として欠けている。だけどそれは、昔は(人間にも)そもそもなかったんじゃないかなと。組織を作って社会に存在するため、自分の身を守るために備わってきた能力で、そこに全ての善悪が存在する。蓮実はそこが欠落して生まれてしまっただけで、人に対する恨みとかはなく、より人間的で、動物的な存在なだけ。人として共感はできないけど、何か欠落した人間を哀れに見るのはエゴなんです。

だから(蓮実の)そういった部分に恐怖を感じつつ、興味深く見るというのが自分のスタンス。気づいてもらいたいのは、このわずかな時間(の映画)の中で観客として殺していいやつがでてくるんですよね。「よくやった! 蓮実!」と思っちゃう(笑)。まあ、山田孝之の役は元から死んでいいような役でしたが(笑) つまり、いいキャスティングでした。そういったおもしろさ、普段生活している中では感じられないスカッとした感じや興奮。全うな人間としての感覚を、蓮実のおかげで楽しめたと思っていただければと思います。

――確かに蓮実には二面性がありながらも、より人間的で、より動物的な嗅覚をもっていると思います。そのような役に伊藤さんを起用した一番の決め手は何でしょう?

三池監督:蓮実が面白いところは、全てを持っているのに一つだけ欠けているところなんです。ちょっと(伊藤と)似ていますよね(笑)『海猿』でヒーローをやって、同じ年に『悪の教典』で蓮実を演じる。世界中を見てもこんな役者いないと思うし、そういう強さを持っている。彼には言いようのない不思議な魅力があるんです。何のために存在してるかなんて意味はなくて、人生にはいろんな選択肢はあるけど、生まれたときから俳優という定めだったということを感じる俳優。生きようとする生命力も強いし、自分らしく生きていたいけどそういう場所がない、孤独の蓮実聖司が(伊藤と)少し重なるんです。映画の後半から蓮実の目の中身が狂ってくるんですよね。まゆとか表情じゃなくて、演技ではできないはずの眼球が狂ってる。普段はクールなんだけど無邪気に笑う笑顔が恐い。そういったところも蓮実的だなと思いますね。

伊藤:うれしいですね(笑)

――ドラマで競演された中越さんや高岡さんの印象はいかがでしたか

伊藤:自分が勝手に思っているイメージですけど、女優さんってすごく逞しいんです。心も強いしそういったところが美しいなと。中越さんは特に声が魅力的で、耳に心地がいい声。声ってすごく大事だなと思いましたね。初めての共演でしたが、関係性やキャラクターについても共演者の皆さんや監督と相談しながらクオリティの高いものづくりを意識しながら進められました。高岡さんもいろんな人生経験をされているからこそ、感じることをエネルギーに変えて演技をしていけると思うので、色気があって女性らしい素敵な女優さんだなと思いました。……続きを読む