予算を抑えるための"密室劇"
アクションスターとしてインドネシアで人気急上昇中のイコは、2007年にインドネシアでドキュメンタリー制作中のギャレス監督に見出された。
イコとギャレスは2009年、『ザ・タイガーキッド~旅立ちの鉄拳~』で長編映画デビューを果たし、国内での地位を確立。ただ、『ザ・レイド』の完成までにはさまざまな障壁があったようだ。ギャレス監督はこう振り返る。
「とある事情がありまして。『タイガーキッド』のあとに『Berandal』という企画が持ち上がったんですけど(『Berandal』は2012年末にクランクイン予定)、プリプロダクションも終え、振り付けも終わり、ビデオストーリーボードも作り終わっていましたが、唯一足りなかったのがお金だったんですよね」
資金提供を募ったものの、なかなか集まらず、1年半の歳月が流れた。「結局は予算を抑えようという話になったんです。100万ドル程度のものだったら、50万ドルは自分たちの会社が出して、残りは出資を募ることにしました。予算を抑えるために考えたのが…密室劇でした。舞台を密室にすれば、天候にも左右されませんし、撮影上、とても都合が良いんです」と、本作の舞台が地上30階建てのビルになったことを明かした。
その密室劇の中で起こる多彩なアクションシーン。それらすべては緻密な計算のもとに成り立っていた。「マーシャルアーツの映画なんですけど、それを自然に見せていくことが大事でした。だから冒頭20分は銃撃戦なので、マーシャルアーツは出てきません。そこから20分間経った段階でマーシャルアーツを入れていきますけど、まだ棍棒とかナイフを持っているのでそれを使っていこうと。そして、最終的には素手の闘いになっていきますけど、そういう展開を意識して作っています」
それらアクションシーンの撮影前、振り付けの大まかな流れを撮影したビデオストーリーボードというものを作成する。「イコとヤヤンが考えた振付は全部ビデオで撮影しています。それを見て、いかに彼らの動きを捉えるかといのを計算した上で、撮影に臨んでいます。それぐらい徹底して臨んでいます。振り付けについて2人とどういうコラボをしたかというと、スクリプトでどういうシチュエーションなのか、どういう敵なのか、どれくらい強いのか、どういう武器を持っているのか。それを書いたところで10人が読めば10人の解釈があるんですね。だから、そこは2人に任せて、格闘の一連のフローを作っていきました」
ギャレス監督は本作の制作前に『ダイ・ハード』『REC』などをリサーチし、参考にしたのだという。その過程で意外な発見もあった。「僕個人としては密室劇のようなサブジャンルが好きで、リサーチをしていろいろな作品を参考にさせていただきました。脚本を書き終えて、完成稿を読んでいて気づいたのが、じつはサバイバルホラーの作品なんじゃないかと。サバイバルホラーとして見るとそこから逆に自由に作り込める。つまり、監督としてもいろいろ遊びがいがあり、いじりがいがある。サバイバルホラーであればマーシャルアーツ的なシーンでありながらも銃撃戦を入れたり、そういったところをきちんとメイクセンスしていく。これはやりがいがあるかもしれないという、そんな個人的な魂胆がありました」
20人のSWAT部隊とギャングとの激しい攻防は、とても低予算映画だとは思えないほどの迫力。息つく暇、瞬きも許されないような目まぐるしい展開に、きっと多くの観客が心を奪われることだろう。
10月27日(土)、アクション映画の概念を覆す作品がいよいよ全国公開を迎える。
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