ターゲットはNexus 7やKindle Fireの200ドルタブレット? それとも……

iPad miniにおける最大のポイントを挙げるなら、それはまず間違いなく「販売価格」にあるだろう。ハードウェアの機能的には、おそらく「小型iPad」そのままである可能性が高く、サービスやソフトウェア面でどのようにAppleが差別化していくかが重要となる。一方で、「7インチの200ドルタブレット」というカテゴリで先行するAmazon.comのKindle FireやGoogleのNexus 7にiPad miniが対抗しようとしているなら、少なくとも値段で直接競合できるだけの訴求力を示す必要がある。だがこれまでの情報を総合する限り、「Appleは低価格戦略を採らない」というのが筆者の推測だ。

同カテゴリで先行する「Kindle Fire」(写真左)や「Nexus 7」(写真右)のような低価格戦略は採用されない?

このクラスのタブレット製品の低価格販売競争は熾烈だ。例えばAmazon.comがKindle Fireをさらに値下げした150ドルで販売するという話が出ていたり、対するGoogleがNexus 7のストレージ容量を倍以上の32GBに引き上げた製品を価格据え置きで提供することを計画計画していたりと、それぞれがお値打ち感を出す努力を惜しまない。こうした値下げが可能なのは、同一製品でも量産効果を出すことで製造コストが徐々に引き下げられるためで、例えば1年前に製造原価200ドルで販売価格も200ドルだったKindle Fireは、現在150ドル未満の製造コストまで下がっていると考えられている

この戦略が可能な理由は、ハードウェア単体の販売は赤字でも、その上で流通するコンテンツの販売で稼ぐという家庭用ゲーム機に近いビジネスモデルを採用している点にある。米Amazon.com CEOのJeff Bezos氏は「われわれはハードウェアを製造コストで販売すればいい」とあからさまに語っており、ライバルらに対抗の余地を与えないことを至上命題としている。Googleも同様にコンテンツ販売で稼ぐモデルへとシフトしようとしており、実際に最近行われたGoogle Play Storeの大幅リニューアルは、こうしたコンテンツ販売重視を打ち出した結果だとみられる。

ではAppleはどうだろうか? 同社の場合、Amazon.comとは真逆で「ハードウェアで稼ぐ」ビジネスモデルを構築している。逆にiTunesに載せるコンテンツは「非常に安価なもの」を目指しており、むしろユーザーを引き寄せるための撒き餌に近い。実際、iTunes StoreやApp Storeで販売されている低価格コンテンツの場合、Appleが負担する流通コストを差し引いて制作者に利益を還元すると、Appleの手持ち分はほとんどなくなり(場合によっては赤字)、オンライン事業で稼げる額は全体の販売数と比べてさほど多くないといわれている。Appleの場合、販売するハードウェアの原価をぎりぎりまで下げつつ、販売価格には比較的プレミアを持たせてその差額で稼ぐモデルを採用している。つまり、Amazon.comやGoogleと同じ戦略を採った場合、Appleの利益は大幅に削られる可能性が高いというわけだ。

iPad miniの販売価格を予測する

これらを踏まえたうえで、iPad miniの販売価格を予測してみよう。Appleが新型iPhoneをリリースする際の部品原価(Bill of Materials: BOM)は200ドル未満を目指しているとみられ(最もストレージ容量の少ないモデルの場合)、これが世代を追うごとに量産効果でBOMが少しずつ下がる構造になっている。iPadのBOMはそれよりも幾分か高く、iPad 2のWi-Fi 16GB版で約250ドル、第3世代iPadのWi-Fi 16GB版で約320ドル程度と考えられている。iPadが高くなる理由の1つがディスプレイで、次いでバッテリ容量があるとみられる。第3世代iPadの場合はこれがさらに顕著で、高コスト化の要因は新たに採用されたRetinaディスプレイと、さらに増えたバッテリ容量にあるだろう。そして、この世代で初めて採用されたLTEチップとA5XプロセッサもBOMを上げる要因になっていると推察できる。

ディスプレイとバッテリがBOM上昇の要因となっているということは、これを削ることで製造コストをある程度圧縮できる。非Retinaで、かつ小型サイズのディスプレイをするのは、それが狙いだろう。また低消費電力と薄型軽量化を目指す過程でバッテリ容量の削減も行われ、それは結果としてBOM引き下げに貢献する。

問題はプロセッサだが、第3世代iPadで採用されたA5Xはダイサイズが非常に大きく、プロセッサの製造コスト上昇の要因の1つになっている。ただ、A5Xでは45nm製造プロセスが用いられているものの、iPad 2,4(第3世代iPadと同時に投入されたマイナーチェンジ版のiPad 2)や新型Apple TVなどではすでに32nm世代のA5プロセッサが採用され始めており、従来品に比べて3割ほどダイサイズが削減されている。これによってプロセッサコストは引き下げられ、第5世代iPod touchのような製造コスト引き下げが至上命題の製品においてもA5が採用されることにつながっている。そして、最新のA6プロセッサでは32nm製造プロセスを採用する一方で、独自の命令拡張でトランジスタを消費しているため、ダイサイズが大きくなって製造コストもA5に比べて上昇している。iPad miniが非Retinaでそれほど処理能力を必要としないのであれば、A5を採用することでコストメリットが大きくなる。

しかし、これだけ工夫したところで、おそらくiPad miniのWi-Fi 16GB版のBOMは200~250ドルと、最新iPhoneのそれより若干高くなる水準になると予想できる。従来のiPadが250~300ドル程度の水準に収まっていたことを考えればかなりの削減効果だが、流通コストや販売店のマージン、Apple自身の利益を考えれば少なくとも販売価格の6割程度に製造コストを押さえ込む必要があり、そこから逆算すれば販売価格は330~400ドル程度ということになる。なぜ同じ7インチタブレットでiPad miniだけBOMが高くなるのかといえば、両面カメラ搭載、さらには3Gモデル登場の可能性と、ライバルに比べてもかなりリッチな作りとなっているからだ(例えばNexus 7は正面カメラのみで画素数も低い)。

同様の予測はアナリストたちも行っており、例えばApple InsiderはKGI SecuritiesのアナリストMing-Chi Kuo氏のレポートを引用して、BOMは少なくとも200ドル、販売価格は最廉価モデルで299ドルとしている。9 to 5 Macは自身のソースから入手した「iPad miniの価格表」と題した画像を引用して、最廉価モデルが329ドルであると報じている。興味深いのは、両者が200ドル台ではなく300ドル台の価格を提示している点だ。BOMから考えれば200ドルの製造原価で299ドルの価格というのはギリギリの線で、製品が売れた場合に(現行iPadやiPod touchとの)内部競合を起こしてAppleの体力を削りかねず、大きな賭けとなる。さらにBOMを下げる方法として、ストレージ容量8GBのモデルを出す可能性も指摘されている

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