113番元素を生み出すためのRILACにおける合成手順

113番新元素の合成では、原子番号83・質量数209の「ビスマス-209」(天然に存在する唯一のビスマスの同位体)をターゲットとして、原子番号30・質量数70の「亜鉛-70」(自然に存在する5種類の亜鉛の同位体の内で0.6%と最も天然存在比が少ない)をイオン化してそれをビームとして照射している。その重イオンビームのスタートとなるのが、「18GHz ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴型)イオン源」だ(画像13)。

18GHz ECRイオン源は、113番新元素など新元素発見のために開発された強力なイオン源である。この装置は、強い磁場の中に閉じ込められているプラズマ中の電子をマイクロ波によって加熱(加速)し、原子に束縛されている電子を叩き出すという作業を何度も繰り返す。そして、多数の電子をはぎ取った「多価イオン」を作ることができるのである。

ただし、今回のルートでは直接見られない位置に設置されているため、撮影はできなかった。そこでWebサイトからの画像を抜粋して掲載させていただく。

画像13。18GHz ECRイオン源。非常に強力なイオン源である。理研 仁科センターの公式Webサイトより抜粋

そして18GHz ECRイオン源を出たイオンは、次に「可変周波数RFQ(Radio Frequency Quadrupole:高周波四重極)」に向かう(画像14~16)。RFQとは、イオン用の線形加速器の1種で、イオン源から引きだされたばかりの低速のイオンをほぼ100%加速することができるという機能を有する。世界中の加速器施設で用いられているが、可変周波数型はRILACが世界初であり、ほかにはほとんどない。

この装置がある理由は、RILACが円形加速器RRCと連結していることにある。同じ加速器とはいえ、線形と円形では機構的に異なるため、1つの加速器として運転させるためには、両者の加速周波数を整合させる必要があり、この装置が必要というわけだ。

両加速器でどう異なるかというと、異なる重イオンを加速するのに、円形加速器では磁場の強さと加速高周波の周波数を変える必要があるが、線形加速器は加速電圧を変えるだけ。そのため、両者を連結して加速するには、RRCに合わせて線形加速器の加速高周波も周波数可変にしなければならないのである。

画像14。可変周波数RFQ。この角度は、一般公開で見られる角度

画像15。地下への階段を下りて反対側で上がって見たRFQ

画像16。上から見下ろす角度で見たRFQ

画像17。RFQとそれに続く加速タンクの間の超絶的に複雑な機器

理研 和光研究所 仁科加速器センターの重イオン線形加速器「RILAC」などの写真スライドショーはこちらから→