「プチプチ」を展開する川上産業の新しい試みは、"つぶれにくいプチプチ"で作るiPadケースだけではない。その幾つかの試みを紹介する前に、意外とPCに関わりがあったプチプチの歴史と川上産業について触れておこう。
梱包材・プチプチはIBMから始まった!?
川上産業では気泡シート「プチプチ」を始め、軽量ながら剛性の高い「プラパール」、気泡の形がハート型の「はぁとぷち」など、「プチプチ」から派生した商品のほか、「プラパール」をベースとした緊急災害仮設空間「QS72」の提供も手がけている。
10月時点での2012年の売り上げは124億円。そのうち9割以上が業務用で、コンシューマ向け製品は1割に満たない。
そもそもプチプチの起源は古く、1960年に米国のエアープロダクツ社が初めて気泡シートを発明。プールにかぶせて落ち葉除去用シートとして使っていた。
その後コンピュータを開発・発売していたIBMが、気泡シートでコンピュータの部材を包むようになってのち、梱包材としての利用法が広まったと言われている。
国内では1966年に宇部興産(当時)がアメリカの機械を導入し「エアーキャップ」を販売し、1967年に川上産業の創業者・故川上聰が日本で初めて気泡シート製造マシンを開発。「エア・バッグ」の商品名で発売した。翌1968年に川上産業が設立、1994年に同社が「プチプチ」を商標登録して製品名とし、現在の展開に至っている。
オレンジプチ、グリーンプチ、防錆プチ……多彩なカタログ製品を展開
梱包用気泡シートを販売するメーカーの中でも約50%のシェアを持つ川上産業は、扱う「プチプチ」の種類も幅広い。B to B販売を主力とする「プチプチ」は、気泡の大きさや形、シート部に使用する材質などにより、約40~50種類の"カタログ製品"を用意する。
カタログ製品では、無色透明な「プチプチ」、酸化鉄を添加し高い燃焼カロリーで他のごみから出るダイオキシンを抑制する「オレンジプチ」、ごみとして埋めても土中で分解する「グリーンプチ」、カーボンを練りこみ帯電を防止する「導電プチ」、防さび効果で輸送に数カ月かかる船便などで使われる「防錆プチ」といった、多数の商品がラインナップされる。
しかしカタログはあくまでベース。同社はそこから発注元のメーカーの希望に合わせ、オーダーメイドで納品する。B to Bでの納品は1ロールが42m長。そこから納品先の要望に合わせ、袋状にしたり、他の資材と組み合わせたりする。
そうしてできた製品の総数は、数千種類にも上る。杉山さんは、この加工技術の高さが同社の大きな強みの一つと語る。
ほぼ100%リサイクルの「エコハーモニー」
そんな同社が展開する「プチプチ」の世界は、"つぶれにくいプチプチ"だけではない。
2009年から発売している緑色の「エコハーモニー」は、ほぼ100%リサイクル原料で作った「プチプチ」。色付き原料を使いこなす事は技術的に難しかったといい、青や緑など色のばらつきはあるものの商品化を実現した。
近年の環境意識の高まりにより「自然栽培のトマトに色の違いがあるような感覚」で受け入れられるようになり、売上げも伸びているという。
「ダイオキシン抑制効果のある『オレンジプチ』や、土に埋めると完全分解する『グリーンプチ』などは、使い終わってから環境貢献する商品ですが、「エコハーモニー」はできた瞬間から環境に貢献するプチプチなんです。価格も他のプチプチと同じくらい。ピンクのプチプチなら秋葉原だよね、というように、グリーンのプチプチならリサイクルのプチプチだよね、という風に早く認知されたいですね」(杉山さん)
また、9月28日には農業資材用のプチプチ「エコポカプチ」に、吸湿性、保湿性のあるポリエステル複合素材の不織布「パスライト」を合わせた「プチラブ」を発売。このほか、充填材「エアピロ」のハート型版を開発した。まだ試作品だが「はぁとぷち」と同じく、高付加価値商品の梱包材として注目されているという。
災害時にも役立つハードなプチプチ、仮設住宅「QS72」
また、「プチプチ」のイメージからは意外に思えたのが仮設住宅の展開だ。プラパール製の仮設住宅「QS72」は、建設会社「第一建設」とのコラボレーション製品という。
川上産業では、プチプチの持つ保温性を活かし、2003年に発生した新潟県中越地震の際にもプチプチ寝袋を寄付するなどの活動を行ってきた。2009年に「QS72」が完成すると、東日本大震災の際には「QS72」のほか、多くのプチプチやプラパールが寄付され、窓の結露防止や臨時の診療所、着替えスペース、避難所での仕切りとして使われたという。
「QS72」の展開例。トイレや集会所、個室、診察室など、形状と組み立て方によりさまざまに変形する |
「QS72」だけでなく、プチプチ自体も災害時に役立つという。仙台にも拠点を持つ同社では、東日本大震災の時も多くのプチプチを寄付している |
プチプチはアートにも進出 - 新しい立体パズル「プチプチ・タングル」
「最近では、アート系のイベントでプチプチやプラパールが使われることが多くなっ てきました」と杉山さんは語る。
2012年3月に開催された「六本木アートナイト2012」では、服飾ブランドFINAL HOMEのデザイナー津村耕佑氏ディレクションとして、『AIR CUSHION SHOW』が開催され、プチプチで制作したウェアを着たモデルたちが会場である六本木ヒルズ内を回遊した。
また、これから発売を控えている「プチプチ・タングル」は、「P.T.」シリーズで使われている"つぶれにくいプチプチ"でできたもの。英語で"絡み合う"という意味を持つ「タングル」の名前通り、絡ませて遊ぶパズルのような製品だ。
「『プチプチ・タングル』は、新しい立体パズル……と言ったらいいでしょうか。糊などの接着材がなくても、からみ合せるだけで、クッションにも、服にもマットにも出来るツールとして楽しめるものです」(杉山さん)
実際に触ってみると、"つぶれないプチプチ"のさらっとした質感で、柔らかいため、簡単に組み合わせることができる。
広がるプチプチワールド
川上産業では、杉山さんを所長として、広報的な業務を行う「プチプチ研究所」という部門を設けている。
もともと、同社では専門の広報部を設けていなかった。そのため、プチプチが知らない所で意外な使われ方をされていても、気づかないことも多かったという。そこでコンシューマ向け商品が拡充され、メディアを通じてプチプチが知られていくにつれ、プチプチが使われている情報を「プチプチ文化」と名付け収集していった。現在では、8月8日をプチプチ記念日として制定するなど、積極的にプチプチの情報を発信している。
杉山さんは、今後は環境貢献などB to Bの部分と、ユーザーに届きやすいB to Cの部分をつないでいきたいと語る。「プチプチのことなら何でもやりたいし、深く追求していきたいですね」(杉山さん)。
「プチプチSHOP」で発売しているコンシューマ向け商品の中で、杉山さんオススメは「プッチンバッグ」。ロールが30cmごとにミシン目で切れるようになっており、切り離したプチプチは30cm×25cmの袋状になっているため、手間なく小物を梱包できる |
プチプチ、はぁとぷち、プラパール、オレンジプチ、グリーンプチ、導電プチ、エコハーモニー、エコポカプチ、エアピロは川上産業株式会社の登録商標です |