OSという急流の流れで奮闘する「Norton Commander」
前述のとおりPeter Norton Computingは、1990年にSymantecへ売却されましたが、その二年後(前バージョンからは三年後)にはバージョン4.0がリリースされました。確かにバージョン番号を変更するだけの変更は加わりましたが、安定性の欠落や実行ファイルの肥大化により、評価は芳しくありません。もちろんキーマンが社を去った面も大きいのでしょうが、MS-DOSのバージョン3.xとバージョン4.xと同じく、安定性が増して高く評価されたソフトウェアの次期バージョンは、"何を追加し、何を削るか"という大きな分岐点で誤った道を選択してしまったのでしょう。
加えて、1992年は米国でWindows 3.1がリリースされた年です(日本語版は1993年)。同OSは日本よりも海外で大きくヒットし、最初に多くのユーザーを集めたWindows OSでもあります。そのあおりを受け、MS-DOSアプリケーションだったNorton Commander 4.0は商業的に成功したとは言えませんでした。この他の要因として他社製ファイラー(DOSシェルやDOSエクステンダーも含む)も多数登場し、移行するユーザーが出てきたのもこの頃からです(図11~12)。
そして翌年となる1993年。初期の「Norton Commander」を踏まえ、多くの改良を加えたバージョン5.0をリリースしました。もっとも、この頃はDOSからWindows OSへの移行が始まり、"ファイラー"という存在が重要性を帯びなくなった時期。確かにNorton Commander 5.0は完成度も高く、当時"NCクローン"と呼ばれていた他社製ファイラーの追従を蹴散らす評価を得たことは確かです。
ドラッグ&ドロップのサポートやネットワーク機能、フィルター機能の強化など数多くの機能をサポートし、機能的な面だけ見れば十分。しかし、時代の大勢に逆らうことはできませんでした。1998年にはロングファイルネームをサポートしたNorton Commander 5.50をリリースし、翌年となる1999年(1998年という意見もあります)には同バージョン5.51をリリースしましたが、DOSユーザーの減少から、Norton Commanderの開発は終了しました(図13)。
これでNorton Commanderの役割は潰えたように見えますが、この話は続きがあります。1996年にはWindows 95およびWindows NTを対象にした「Norton Commander for Windows 95/NT 1.0」をリリースしました。Windows OSをベースにDOS時代のファイラーを移植したものですが、Windows OSの標準機能をサポートし、DOSとWindowsという二つのOSをつなぐ有益なアプリケーションでした。1998年にはWindows 98をサポートするバージョン2.0がリリースされましたが、翌年のバージョン2.01でNorton Commanderの歴史は閉じています(図14)。
図14 Windows OS上で動作する「Norton Commander for Windows 95/NT」。バージョン1.00/1.01/1.02と、バージョン2.00/2.01がリリースされています |
バージョン3.0がリリースされなかった理由として開発者の一人であるMark Lowlier(マーク・ローライアー)氏は、SymantecがWindows OSが成功すると推測し、Peter Norton Computingの主要開発者をバラバラにすると同時に、多くのWindowsプログラマーを雇用。その後セキュリティ面を強化していく会社の方針とNorton Commanderの役割は合致しなかったため、と述べています。
「Norton Commander」シリーズは市販品であると同時に、DOS時代のソフトウェアであるため、現在では入手する方法はほぼ皆無。本稿をご覧になって、興味を持たれた方は「WinNC」はいかがでしょうか。文字どおりNorton Commanderのクローンソフトウェアの一種。Windows 7などで動作する28.46ドルのシェアウェアです。Windows OSとの親和性を高めつつ、Norton Commanderと同じくファンクションキーやショートカットキーを用いたファイル操作は、1980年代のコンピューター操作環境を体験することができるでしょう(図15~16)。
Windows OSのエクスプローラーに満足できない方は一度お試しください。ナビゲーターは阿久津良和でした。次回もお楽しみに。
阿久津良和(Cactus)
参考文献
・Softpanorama
・Wikipedia