新しいコーヒーにしても、機内食の「AIRシリーズ」にしても、単に人気のグルメを出すだけでなく、JALのオリジナルメニューとして様々な工夫が施されている。
例えば「AIR肉まん」は、「地上ではせいろを使って蒸すが、機内食として出すにはまったく違う方法をとらなければならない。一度、冷凍保存し再度常温に戻し、それを機内のオーブンで温める。その特殊な工程の中で一番おいしく食べられるよう肉まんの皮の部分にブラウンシュガーを入れ、また、カットする肉の大きさも変えた」(同社)。ファーストやビジネスクラスのみのサービスでは一般的だが、エコノミークラスで提供される機内食で、ここまで手間をかけているのだ。ヒットするのも納得である。
JALをはじめとするレガシー・キャリア(大手航空会社)は、低コスト航空会社(LCC)の台頭によってサービスによる差別化を迫られており、エコノミークラスでも一定のレベルアップが必要とされている。そうした中、JALは機内食を差別化の重要なポイントとしてとらえ実践してきたわけである。
JALといえばホノルル(ハワイ)線を運航する航空会社というイメージが強いが、そのホノルル線ではハワイのロコフードや、羽田発ではメゾンカイザーのパンが食べられるなどハワイ気分を盛り上げる「わくわくリゾートプレート」を提供。写真は昨年6月取材時の羽田発便機内食例 |
日本の食の発信が生む相乗効果
LCCとの差別化と合わせ、JALでは「日本の食文化を世界に向けて発信し続けること」を機内食の重要なコンセプトにしている。2012年9月から羽田発サンフランシスコ、バンコク、シンガポールの各路線で「スープストックトーキョー」を手掛けるスマイルズと共同開発した「海苔弁 山登り」を提供。「山登りをして、ひと休みした時に絶景を見ながら楽しむお弁当をイメージ」し、愛知県三河産の海苔やブランド米の「あきたこまち」、鹿児島県枕崎産の鰹節を使うなど食材にこだわり、また玉子焼きは、家庭で作るそれを想い起こさせるよう甘い味つけにし、あえて焦げ目をつけるという徹底ぶりである。
最近は、日本の文化を発信するサービスが逆に日本人に自国の文化や食の素晴らしさを再認識させて相乗効果を生む傾向があるが、JALの機内食はその典型だろう。
得意分野の上級クラスで実力発揮
再上場ということでいえば、収益率の高いファーストとビジネスクラスの競争力を上げる必要があるが、この点は長距離の国際線や国内幹線での運航歴の長いJALにとっての得意分野といえる。
2011年12月から、国内線のファーストクラスで帝国ホテルとのコラボレーション企画をスタート。第1弾では同ホテルの田中健一郎総料理長が監修する朝食を、昼食には望月完次郎シェフパティシエ監修によるスイーツを提供。2012年6月からは第2弾として、ハワイの高級ホテルであるハレクラニを加えた3社連携企画を開始。JALファーストクラスラウンジとサクララウンジでは、夕刻時に「ハレクラニ オリジナルドリンク」を、成田発ホノルル線のビジネスクラスでは「ハレクラニ 特製ココナッツケーキ」を提供するなどしている。
また、2012年2月中旬からは「南魚沼産コシヒカリ」をJALの技術を使い炊き立ての状態で出し、デザートでは世界最高のショコラティエと言われるジャン=ポール・エヴァンのショコラを提供。しかも「日本人の繊細な味覚に合うショコラ」をテーマに開発されたJAL限定のオリジナルショコラも含まれる。
チョコレート界の巨匠 ジャン=ポール・エヴァン氏とのコラボレーションも実現。国際線ファーストクラス・エグゼクティブクラスで提供する9種のショコラのうち、4種がJALオリジナル。右側がファーストクラスで提供するショコラ。左側がエグゼクティブクラス用 |
「経営悪化、経営破たん、そして再建へと続く中でサービスの質が低下しているのではないかとの見方をされた。そこで、JALは企業理念である『最高のサービスを提供する』というコンセプトの下、機内食を再度見直した」(同社)。しかもそれは、機内食からコーヒー、デザートなどミールサービス全体に及ぶ機内食全体の刷新となっている。
それこそが、ここ数年におけるJALの機内食サービスで最大の特徴である。