MSXで動くDOS「MSX-DOS」と「MSX-DOS2」
今度は本記事の主題であるOSに目を向けてみましょう。前述のとおりMSXは、Microsoftとアスキーが共同開発したMSX BASICを内蔵していますが、OSとして注目すべきは「MSX-DOS」です。本来はMS-DOSのサブセット版に当たりますが、機能的には、Digital Research(デジタルリサーチ)のCP/MをMSXに移植したと述べた方が適切でしょう。CP/Mのシステムコールと互換性を保持していたため、既存のCP/Mアプリケーションもファイルシステムを変換することで実行可能でした。
開発環境もCP/M用ソフトウェアを使用できるため、アセンブラやC、Pascal(パスカル)といった開発言語が使用できたのは大きなアドバンテージだったのでしょう。筆者は目にしたことがありませんが、アセンブラやリンカなどの開発ツールをまとめた「MSX-DOS TOOLS」も発売されました(図09)。
もともと安価なコンピューターとして認知されていたMSXだけに、ROMカートリッジではなくFD(フロッピーディスク)で販売されていたMSX-DOSの認知度はあまり高くありません。MSXの仕様設計を行う際には、会社で作成したMS-DOS上のファイルを自宅のMSX-DOSで編集する……などの使用方法を想定していたようですが、MS-DOSはMSXが登場した1983年にバージョン2.0をリリース。ファイルシステムレベルでの互換はなくなります。そのためMSX-DOSは好事家の玩具、もしくはMSX用ソフトウェアの開発環境として用いられていましたので、一定のニーズは残されていました。
1988年にはMSX2用として「MSX-DOS2」が登場しました。FDとROMカートリッジがセットになった状態で販売され、手本をCP/MからMS-DOSに変更し、MS-DOSバージョン2.0でサポートされた階層構造に対応するファイルシステムに変更。RAMディスクをOSレベルでサポートし、漢字ROMを内蔵したMSX2マシンでは、日本語表示も可能にするなど、8ビットコンピューター用OSとしては完成度の高さが光ります(図10~11)。
しかし、この時点でも普及を妨げたのは価格設定でした。日本語MSX-DOS2(MSX-DOS2の製品名)は約2万5000円。実装メモリが少ないMSX2マシン向け絵には、256Kバイトのメモリをセットにしたパッケージも用意されていましたが、こちらは約3万5000円と、安価なMSX2マシンに迫る勢いです。また、内蔵されたMSX-BASICの強さも相まって、MSX-DOS2の存在は前バージョンと同じく多くのエンドユーザーには広まりませんでした。
その一方で注目すべきは開発技術を持った一部ユーザーの行動です。内蔵PSGやFM音源などを用いた音楽ドライバーやプレーヤーや、独自のテキストエディター、逆アセンブラなど、開発環境を構築するツールが次々と公開されました。それぞれを一つずつ紹介することはできませんが、現在でもMSXという単語で検索を行いますと数多くのファンサイトがヒット。エミュレーターや1ChipMSXを対象にしたフリーウェアを配布しているサイトに出会うことができます。