問題はMediaTekやTIといったメーカーである。MediaTekは、特に中国市場における携帯電話のシェアのかなりの部分を取っているメーカーだし、TIもTabletや様々なInternet Appliance機器でシェアは大きい。勿論4Gへの対応はどちらのメーカーもそれほど進んでいるとは言えないが、MediaTekは主戦場の中国など途上国はまだ3.5Gはおろか3Gがメインだったりするのが問題だし、TIはOMAPにModemが入っていない(というか、入れていないというか)のが主な理由で、その事そのものは実はそれほど大きな問題ではない。問題なのは、こうしたMediaTekやTIがリリースしているSoCは、比較的簡単に競合メーカーがFollowupしやすくなっているということだ。例えばTIの場合、かつては最新のARMコアを最先端の微細化プロセスでいち早く利用してSoCを製造することで、競合メーカーよりもより高性能かつ低消費電力の製品を市場投入する、というのがセオリーだった。ところがプロセスの微細化のペースが大幅に鈍ってくると、このシナリオが通じにくくなる。例えば昨年末からやっと28nmプロセスが利用できるようになったが、未だに生産能力は不足気味であり、これが解消されて製品が普通に市場に出回るのは2013年までかかりそうだし、その次の20nmについては未だに明確に量産可能時期が示されていない。こうなると、いち早く先端プロセスを使うことで差別化、というシナリオは困難であり、最初こそ多少アドバンテージがあってもすぐに他のメーカーに追いつかれる事になる。
もっとシビアなのはMediaTekである。最近、香港でARMのCPUコアやGPUコア、あるいはImagination TechnologyのGPUコアのライセンスを受けるファブレス半導体ベンダーが猛烈に増えてきている。こうしたベンダーは比較的安定している40nmあたりのプロセスを使い、ARMのCortex-A9にMali-400MPとかPowerVR SGXといった、これまた安定したIPコアを組み合わせててアプリケーションプロセッサを構築している。さらに言えば、3.5G/4GあたりのモデムとなるとIPも限られるが、3GのモデムであればIP供給元を見つけるのはそう難しくなく、つまりMediaTekが提供しているようなSoCを簡単に作ることが出来るようになってしまっている。勿論どちらの会社もサポートとかソフトウェアの質などでまだアドバンテージがあるから一朝一夕にシェアが激減することはないだろうが、放置しておけばどんどんシェアが削られてゆくのは明白である。
これに対抗するための差別化の要因として、両社はHSAを選んだという事である。基調講演後の質疑応答の際、TIはDSPコアはどうするんだ? と聞かれ「確かにDSPコアは現在優れたソリューションであるけど、GPGPU的な使い方は既存のDSPコアの使い方と矛盾しない」と説明している。DSPコアは低Latencyで処理が可能で、かつそれなりの演算性能が獲得できる反面、演算精度はGPUほど高くないし、また処理性能がScaleしないという問題がある。GPUはDSPに比べればLatencyこそ多いが、絶対処理性能はDSPを超えるし、必要なら64bit精度までの値を扱える。またGPUコアの数を増やすと簡単に性能もScaleするので、アプリケーションから見ると競合しない。今回両社がFounderとして参画した、というのは仕様の策定を決定できるという立場で、早い時期から対応製品の投入を可能にすることでアドバンテージを確保しよう、という意思の表れと考えられる。