NVIDIAが主催する「GPU Technology Conference 2012 (GTC 2012)」では、「Kepler」の新機能として「ゲーミング・クラウド」がサプライズ発表された。GPUの処理能力を持った仮想デスクトップ環境だとすれば、それをゲーム分野に応用したのが「GeForce GRID」となる。VGXが主にエンタープライズのイントラネット環境をターゲットとしているのに対し、GeForce GRIDは「OnLive」などにみられるように、インターネット・クラウドからゲームの処理データがストリーミング配信されてくる形態を採る。今回、このGeForce GRIDを使ってゲーム配信事業の整備を進めている台湾UbitusのEVP兼チーフプロダクトオフィサーのDerek Chim氏に同技術の概要についてうかがった。
ゲーミング・クラウドとは?
ゲーミング・クラウドとは、PCやゲーム機の本体をクラウド上に置き、ユーザーがインターネット経由でゲームを楽しめるサービスだ。ユーザーにとっての大きなメリットは2つあり、まず「高性能なゲーム機やPCが手元になくても最新のハイエンドゲームが楽しめる」こと。そしてもう1つは、「セットアップの手間なしにバラエティ豊かなゲームタイトルを安価で手軽に楽しめる」点にある。例えば筆者は最新のゲーム機やハイエンドGPUを搭載したPCを持っておらず、あるのはGPU内蔵型チップセット搭載のMacBook、iPad、スマートフォンくらいだ。ゲーミング・クラウドでは手元で操作するデバイスにそれほどパワーは必要なく、さらにデバイスの形態も選ばない。ゲームをいざ遊ぶときも、基本的なサービス費用と追加料金を支払うだけで済むため、イチからゲーム機に初期投資するよりも安上がりだ。デバイス環境が多様化するなか、今後大きなムーブメントになるといわれるのはここがポイントだからだ。もっとも、初期のゲーミング・クラウドが登場してから2-3年ほどが経過しているが、いまだブレイクしていないのもまた事実だが……。
ゲーミング・クラウドのアイデア自体は以前からあるが、Kepler利用における最大のポイントは回線収容力と電力効率の高さだ。より高密度で効率のよい処理が可能なため、少ないリソースでより多くのリクエストに対応できる |
GeForce GRIDに使われるKeplerはデュアルコア構成で、3072個のCUDAコアを備える。これはGTX 690と同じ |
台湾UbitusのEVP兼チーフプロダクトオフィサーのDerek Chim氏は自社のポジションについて「われわれのビジネス形態はBtoBtoCだ。キャリアはインフラを持っておりサービスを提供したいが、そのためのノウハウがない。そこで技術を提供し、ユーザーとの仲介を行うのがUbitusの役割となる。昨年2011年末には日本でNTTドコモのXi向けサービスの提供を開始しており、すでにXi対応タブレットの中にアプリをプリインストールする形で提供が行われている。こうしたユーザーに手持ちのデバイスで、すぐにゲームへとアクセスする窓口を提供していくのがわれわれの狙いだ」と語る。UbitusはNTTドコモのデータセンターの中にゲーミング・クラウド用のサーバを設置し、そこからゲーム配信を行う形態をとっている。ゲームで重要となるのは"ラグ"と呼ばれるレスポンスで、この遅延を最小限に収めるためにキャリア内部のデータセンターを間借りするスタイルをとるようだ。
現時点では、UbitusのサービスはKeplerを搭載しておらず、あくまでCUDAベースの既存技術を利用しているという。だがKeplerベースのGeForce GRIDを採用することでサーバあたりの1ゲームストリームの収容数が2桁に到達し、電力消費も含め非常に効率的な運用が可能になるメリットがあるとChim氏は語る。またゲームのストリーミング処理においては、ユーザーから入力を受けてからサーバ側でCPU+GPUの処理が行われ、そのレンダリング結果をインターネット回線を介してユーザー側のデバイスに返して表示が行われるため、ユーザーに"ラグ"を感じさせないためには、可能な限り処理レスポンスを速くしなければならない。回線自体は環境にも左右されるため改良できる部分は少ないが、それ以外のレスポンスを向上させることは大きな改善ポイントであり、この点がKeplerベースのGeForce GRIDのメリットになる。いずれにせよ、収容力の高さはビジネス効率の面で事業者にとってのメリットであり、レスポンスの速さはユーザーにとってのメリットだ。