明確になったWindows 8におけるDVDビデオ再生機能
先週のレポート記事]で紹介したアップグレードパッケージの存在は、各方面で物議を醸し出した。そのためBuilding Windows 8では、[FAQとして同パッケージを設けた理由をあらためて述べている。ここではFAQの回答を元にMicrosoftの置かれた状態に注目してみよう。
そもそもWindows OSがDVDビデオ再生機能を備えたのは、Windows 98からである。標準サポートではなかったものの、セットアップCD-ROMには「DVDPLAY.EXE」というものが隠されていた。もっともレジストリを編集することで、Windows Media Player 6.4を用いたDVDビデオ再生が可能だったため、使用する方は多くなかったと記憶している(図08)。
ただし、コンピューターでDVDビデオを再生するには、MPEG-2による映像やAC-3による音声を復号するためのデコーダー(復号装置)が必要であり、Windows 9xの時代はハードウェアデコーダーも販売されていた。同デバイスはCPUパワーが増すことで不要のものとなったが、その一方で残った問題が再生用デコーダー=コーデックの存在。もともとDVDビデオは映像や音声に特許を有する技術が用いられており、これらをコンピューター上で復号するためには、権利者とのライセンス契約が必要になる。そのためWindows XPでは、市販のDVDビデオ再生ソフトかWindows Media Player用DVDデコーダーパックの購入が必要だった。
Windows Vistaの場合、Home Premium/UltimateエディションはDVDビデオ再生用コーデックを内包していたものの、OEM版のStarter/Home Basic/Businessエディションは、同コーデックをライセンスするオプションが用意されていた。そのため、販売ベンダーによってDVDビデオが再生できる・できないといったコンシューマーが混乱する原因を作ったことになる。蛇足だが、Microsoftは「Windows Vista Business Sngl Open Business DVD Playback Pack」というDVDビデオ再生用コーデックをSA(ソフトウェア・アシュアランス)の商品として提供しており(現在は販売終了)、SAを結ぶためのライセンス条件を満たすために購入した方もいた。
話を本題に戻そう。このようにWindows VistaまではDVDビデオ再生用コーデックを未搭載、もしくはエディションによって搭載という形式だったが、Windows 7ではHome Basic/Starter以外のエディションで同コーデックを標準搭載し、ほとんどのエディションでDVDビデオ再生を楽しめるようになった。この結果コーデックに伴うロイヤリティが発生し、光学ドライブ未搭載のコンピューターでも、不要なロイヤリティが発生していたことになる。
DVDビデオ再生用コーデックのラインセンス代理店であるMPEG-LAのライセンス単価は現在2ドル。これに加えて、Dolbyとのライセンス契約単価が追加されるが、ライセンス内容やボリュームによって異なるため、同ブログでは料金は示されていない。それでも現在の出荷台数に換算すると80億円以上、OSのライフサイクルを踏まえると約8,000億円にも及ぶという。このような背景からDVDビデオ再生機能が必要な方と不要な方の公平性を維持(すると同時に同社の販売コストダウンを実行)するため、同社はDVD再生機能の切り分けという手段を選択したのだろう。
DVDビデオ再生用コーデックを内包しているWindows 7からWindows 8 Proなどにアップグレードしても、コーデックの使用ライセンスは移行されることはない。これはライセンサーによって決められたものであり、使用者ではなく製品に対してライセンスされることを踏まえれば不可解な話ではない。そのため、Windows 8使用時は「Windows 8 Pro Pack」、Windows 8 Proは「Windows 8 Media Center Pack」の購入が必要となる。ただし、これらを購入してもDVDビデオの再生はWindows Media Centerのみであり、Windows Media Playerによる再生は不可能だ。同社はその理由として機能の多重化やコンポーネント動作の変更による混乱を避けるためと説明している。つまり、DVDビデオ再生用コーデックおよび、Windows Media CenterはOS本体から切り離されるということだ。
ここで思い出すのがWindows 95に機能拡張を行う「Microsoft Plus! for Windows 95」の存在。アイコンの多色化やデスクトップテーマ機能、Internet Explorerの追加などを行うパッケージが別売りされていた。希望小売価格は6,800円、Windows 95本体は29.800円(アップグレード版は13,800円)と、当時とはやや割高に感じたように記憶している。意図や主旨は異なるものの、「Windows 8 Pro Pack」や「Windows 8 Media Center Pack」は必要なユーザーだけが買い求めるPlus!パッケージのような存在になりそうだ。
阿久津良和(Cactus)