熱と影に強いCIS薄膜太陽電池

「1つは光照射効果が大きい点です」。太陽電池の材料は、シリコン系が現在の主流なのだが、ソーラーフロンティアは銅・インジウム・セレンを主成分としたCIS薄膜太陽電池。CIS薄膜太陽電池は、太陽光に当てておくと出力が高まっていく性質を持っており、これを証明するデータを菱田氏が見せてくれた。

沖縄・北谷で菱田氏が3月に測定した発電量比較 拡大はこちら(PDF) ※各社システム設置容量が違うため、1kWに換算

これは、シャープ、三菱、ソーラーフロンティア、ドイツのQセルズの発電量データ(今年3月分)で、菱田氏が沖縄で測定したもの。ちなみに、ソーラーフロンティア以外はシリコン系だ。これを見ると、2kWh以下の日(雨天時など)は大差がないが、発電量が伸びれば伸びるほど、ソーラーフロンティアが他社を引き離していく。

さらに、SBエナジーのデータや菱田氏のデータの晴天時にソーラーフロンティアが圧勝な理由がもう1つある。それは、比較的「熱に強い」という点。一般的にシリコン系の太陽電池は熱に弱いとされているが、CIS薄膜太陽電池は熱に強い。また、構造上の違いによりCIS薄膜太陽電池は部分的な影にも強い。夏場の高温時だけではなく、周辺の建物の影が差し込んだ時などもシリコン系と比較して発電量の落ち込みが少ないといえる。こういった差の積み重ねにより、他社製品との大きな開きが生まれるわけだ。

こういった特徴は、カタログ上のスペックである変換効率だけを見ていても分からない。「変換効率と設置後のギャップを埋めるのが、SBエナジーや私が測定している『実発電量』(実際に設置してみての発電量)のデータです」。ただし、九州の購入検討者が北海道の発電量データを見てもそれはあまり意味がない。実際に設置する環境に近い条件下で測定された実発電量を見る必要があり、例えばソーラーフロンティアの場合、サイト内で日本各地の実発電量を公開しているのでこういったデータが検討時に役立つわけだ。ちなみにソーラーフロンティアは昭和シェル石油の100%子会社で、宮崎に巨大な生産工場を有する。

さて、ここまでは「発電量の多い太陽光発電の選び方」について説明してきた。発電量が伸びれば家庭内の電力がまかなえるメリットがあり、さらには余剰電力を電力会社に売ることだってできる。現在は、設置から10年の間、42円/1kWhで余剰電力を売ることができる。たくさん発電すればするほどお金を生むシステムなのだ。初期費用を回収して早くモトをとるためには、賢く太陽光発電を選び、売電のメリットを大きく享受する必要がある。さらにもう1つ、初期費用を抑える方法についても紹介しておこう。

もっと早くモトをとる!

それは、太陽光発電普及拡大センター(以下、J-PEC)による補助金の利用で、平成24年度は1kWあたり最大3万5,000円が交付される。一般家庭の平均出力は4kWなので、その場合最大14万円を受け取ることができる。これにより、初期費用が抑えられるわけだ。

最後に、変換効率ではなく、菱田氏測定の実発電量をもとに初期費用想定回収期間を算出してみよう。下の表(J-PECの補助金交付条件の1つとして、「1kWあたりの経費が55万円以下」があるため、1kW当たり55万円で初期費用を算出)を見ると、変換効率がもっとも低いソーラーフロンティアが9.5年。電力会社に余剰電力を買い取ってもらえる期間は設置後10年間なので、その間に初期費用を回収できるという意味は非常に大きい。

社名 種別 設置パネル(kW)※1 変換効率(%) 実発電量(kWh)※2 初期費用(円)※3 初期費用想定回収期間(年)※4
ソーラーフロンティア 化合物系(CIS) 2.88 11.4 329.57 1,584,000 9.5
シャープ シリコン系(単結晶) 2.66 16.5 266.70 1,463,000 10.9
三菱 シリコン系(単結晶) 2.80 14.1 279.40 1,540,000 10.9
Qセルズ シリコン系(多結晶) 2.88 14.4 294.20 1,584,000 10.7
※1公称最大出力数値
※2 「琉球てぃーだ」設置パネルの1カ月間の実績値(測定値: 沖縄県 測定時期: 2012年3月)
※3初期費用は、55万円×設置パネル(kW)にて算出
※4 想定回収期間は、初期費用÷全量売電した場合の金額にて算出。初期費用は55万円×設置パネル(kW)にて、全量売電金額は売電価格42円で算出。年間の発電量については3月実績値より想定

ただし、回収期間は初期費用および設置面により変動

監修: 菱田剛志氏

太陽光発電は、製品価格の低下や補助金制度などのおかげで随分と一般家庭も取り入れやすくなった。だが、まだまだ初期費用は高額で、だからこそ少しでも早くモトをとりたいと考えるわけだ。最近では、SBエナジーや菱田氏のデータのように実測値が公開され始めているので、メーカーのうたい文句を鵜呑みにするのではなく、自分自身が納得して製品選びをしてもらいたいと思う。

監修

住宅設備コーディネーター・琉球てぃーだ代表取締役 菱田剛志氏
大手建設会社にて日本各地の事業開発にたずさわり、その後、外資系損害保険会社勤務。
2002年には太陽光発電システムの事業立ち上げのため、電気工事会社に入社。2004年に太陽光発電システムの見積仲介サイト「見積工場」の運営責任者に就任。
現在は沖縄に在住し、太陽光発電システムの設計や販売、施工を行う琉球てぃーだ(沖縄・北谷)代表取締役。