アメリカで名刺をもらったり、人からメールアドレスを聞くとまず間違いなく、インターネットメールのメールアドレスだ。しかし、日本では、メールアドレスとして携帯電話のメールアドレスを使っている人は少なくない。日本では早くから携帯電話のメールシステムとインターネットのメールシステムがつながっていたため、iモードメールのアドレスなどをメールアドレスとして使うことが定着している。
それだけでなく、メールやWebなどのインターネット上のサービスを携帯電話から利用する「だけ」の人も少なくない。PCの世帯普及率などを考えると、自宅にパソコンがあるにもかかわらず、インターネットのアクセスは携帯電話だけというユーザーがかなりの割合で存在しているわけだ。
モバイルインターネットへ移行しつつある米国
これに対して、これまでの米国では、メールやWebは、PCでアクセスするのが普通で、携帯電話によるアクセスは、特別なことであった。BlackBerryが米国で普及したもの、携帯電話のメールやWebが遅れていたためで、つい最近まで、大多数の携帯電話ユーザーは、小さな液晶の通話中心のフューチャーホンを使っていたのである。日本と比べて、有線のインターネットが安価に利用できたため、インターネットが一般利用可能になると、一般家庭にも広く普及したからである。特にケーブルテレビとの組み合わせでインターネット接続を行っている世帯が大半だという。
ところが、CTIAが発行したレポートによれば、米国にも携帯電話を中心に使うユーザーが増えてきているという。2006年には、携帯電話など無線のみの接続だった世帯は、米国の全世帯の10%しかなかったが、2011年12月の調査では31%を超えているという。元々、有線が引かれていない地域などがあったため、2006年には1割ほどだった無線のみで接続している世帯が、スマートフォンなどの普及により、3割にまで増加したのだという。
これに伴い、携帯電話のデータ通信による売り上げは、米国全体で2001年の4億9千万ドルだったものが、2011年末には620億ドルと10年で120倍以上になった。これに対して、携帯電話の通信料金全体の売り上げは、2.6倍程度しか増えていない。この10年で米国は急激に、携帯電話によるデータ通信を増やし、PCによる有線インターネット接続から、スマートフォンによるインターネットアクセスに移行しつつある。
無料の音楽サービスもスマートフォンで
そんななか、CTIA Wirelessの基調講演には、米国の音楽サービスであるPANDORAと、EU圏発祥で米国に進出したSpotifyの2社が参加していた。PANDORAは、インターネットラジオで、SpotifyはP2Pの音楽ストリーミングサービス。どちらも、米国などのサービス地域内では、多少の制限はあるが、無料で好きな曲やアーティストを選んで聴くことができる。音楽は、小説のようにあらすじを公開することもできないし、映画の予告編のような短縮映像を作ることもできない。映画や小説は論理的なストーリーがあるので、これを伝えることで概要を理解できる。また、絵画は、デジタル画像により容易にコピーできる。
ところが、音楽はサビだけを集めた短縮版を作っても意味がないし、最初の30秒で全体を理解できるわけでもない。このため、音楽を売るには、音楽そのものにユーザーが触れる必要がある。これは、かつてテレビやラジオがおっていた役割だ。ところが、当初は、インターネットによる違法コピーのみが問題となり、インターネットで自由に音楽を聴くことが難しかった時期があった。CDなど音楽ビジネスが世界的に縮小しつつあるのは、テレビやラジオに代わってインターネットに触れる時間が増えつつあるのに、音楽に触れる時間が短くなる傾向にあったからというのも1つの理由だろう。
こうしたこともあってか、海外では、SpotifyやPANDORAなど無料で音楽を聴くことができるサービスが普及しつつある。無料会員には広告モデルを適用し、有料の会員になれば、ポータブル機器へコピーすることもできる、結果的に音楽のビジネスが成り立つわけだ。またSpotifyによれば、発祥の地スウェーデンでは、Spotifyの普及に応じて、違法コピーの流通が減ったという。