4月10日、FileMakerシリーズの最新バージョンであるFileMaker Pro 12/FileMaker Server 12/FileMaker Go 12 for iPhone/iPadがリリースされた。この最新版では、さまざまな機能が追加・改良され、複雑な要件下でもマルチプラットフォームに対応するアプリケーションを構築できるようになった。そして何より、実に8年ぶりのファイルフォーマットのバージョンアップが行われている。
FileMaker Pro 12の新機能については、先に掲載された「【レビュー】8年ぶりのフォーマット変更も! - 「FileMaker 12」の新機能をチェック」で紹介しているが、何よりも注目なのは、iOSプラットフォーム向けのFileMaker製品である「FileMaker Go」が無料化されたということ。本格的なiOS展開に向けて舵を切ったFileMakerが、これからどのように市場に展開していくのか。今回、ファイルメーカー株式会社社長のビル・エプリング氏と、同社マーケティング部シニアマネージャーの荒地暁氏に、新製品の目玉と今後の展開について話をうかがった。
FileMaker Goを糸口に、まずFileMakerソリューションに触れてもらいたい
-- はじめに、FileMaker Pro 12の目玉機能についてお聞かせください。
エプリング:その質問は、何人もいる子供について、「どの子供が一番好きか」と聞かれるようなことなのですが……(笑)。
まず核となる点は、iOSプラットフォーム向けのアプリケーションを、高速に開発・展開できるようになったことです。既存の資産をふくめて、FileMakerデータベースの強みを、そのままiOSデバイスで実現できるようになりました。
また、プラットフォームを意識することなく、美しいデザインを持つアプリケーションを簡単に開発できるようなった点があげられます。強化されたレイアウト管理ツールとスターターソリューション、テーマアーキテクチャをもちいることで、最初からマルチプラットフォームを意識したアプリケーションのデザインが設計できます。
-- 新しいテーマアーキテクチャとスターターソリューションを、どんなユーザに使ってほしいとお考えでしょうか。
エプリング:テーマアーキテクチャについては、すべてのFileMakerユーザにたいして価値のある機能を提供できるのではないかと思います。
デベロッパは必ずしも、アプリケーションの「見た目」、デザインについてのプロフェッショナルであるとは限りません。美しいデバイスの上で、美しい見た目をもつアプリケーションが提供できるというのは重要なことです。新しいデバイス上の「経験」や「体験」を、アプリケーションでも表現できることで、多くのユーザが「新しいデバイスをビジネスに活かせる」と思えるようになります。テーマアーキテクチャを使えば、新しいiPad上でも美しい表現が可能です。
一方、スターターソリューションは、経験を積んだデベロッパ向けというよりは、どちらかと言えばFileMakerを新しく使い始める方々に触れてみてほしいと思っています。
荒地:FileMaker Pro 12のスターターソリューションは、従来からのWindowsやMacだけではなく、iOSにも対応しています。「iPhoneやiPadをビジネスで活用したいが、どう活用すればいいか、どうやって始めればいいかを検討している」という人に対してぜひ使ってみてほしいです。
-- スターターソリューションは、開発者向けの機能というよりもまったくFileMakerを使ったことがない人たち向けの機能ということでしょうか?
エプリング:新しいユーザ「だけ」ということではありませんが、これまでにiOS向けのアプリケーション開発に従事したことがなく、インタフェースデザインや画面の遷移といった設計に悩んでいるデベロッパにとって、より価値がある機能ではないかと思います。
私たちとしては、まず多くのユーザにFileMaker Goを新規に試していただこうと考えています。FileMaker Go for iPhone/iPadは、iOSデバイスでFileMakerプラットフォームを経験していただくものであるのと同時に、動線のひとつになります。FileMaker Go 12のローンチ後、最初の1週間で10万件を超えるダウンロードを記録しました。FileMaker Go自体はスタンドアロン製品ではありませんので、FileMaker Goを触った方は次にFileMaker Proの試用版を試す――という流れで、FileMakerプラットフォームを経験していただくよい機会になると考えています。
FileMaker Goの無料化によって導入・管理上の問題を解消
-- そのFileMaker Go 12 for iPhone/iPadですが、無料にした理由をあらためてお聞かせください。
エプリング:大きく分けて2つの理由があります。ひとつは、先ほど申しあげたとおり、より多くの人にFileMaker開発プラットフォームを経験してほしかったということです。
もうひとつ大事な点として、iOSでビジネスアプリケーションを構築するにあたり、展開上の課題を解決することにありました。ここでの課題とは、iTunesを経由したソフトウェアのインストール時に発生する手間や、有償のソフトウェアにおける管理側の煩わしさ、個人/法人の決済管理。そして――iOSデバイス分のライセンスフィーです。
iPhone/iPadをビジネスに活用したいと考えている企業は、iTunesのApp Storeからアプリケーションをダウンロードする場合、それが「無料」か「有料」では、導入に値するかどうかの基準が大きく異なってきます。まず最初に課題になるのは、アプリケーションが有料であった場合の決済手順と方法についてです。そして、iOSデバイスを個人で所有してるのか会社で所有しているのかでも、管理の方法が変わってきます。
iTunes App Storeの仕組み上、ソフトウェアの価格は無料の方が、より魅力あるプロダクトになるのではないかと思います。
たとえば、アメリカのある大手病院グループでは、FileMaker ProとFileMaker Serverで構築された基幹システムがありました。FileMaker Proの導入台数は1000台を越えています。彼らはFileMakerで構築したユーザエクスペリエンスをそのままiOSでも活かしたいと思っていましたが、ここで障壁となったのが、さきほど挙げた展開上の問題です。
FileMaker Go 12を無償にすると発表したとき、直接このお客様から連絡をいただき、「iOSデバイスでFileMakerの基幹業務を展開するにあたり、これまで院内で懸念されていた問題をすべて解決することができた」という声をいただくことができました。
FileMaker Server/FileMaker Pro/FileMaker GoでWindows/Mac/iPhone/iPadに対応したアプリケーションを高速に展開でき、グループ内でのFileMakerのポジションを大きく高めることになったのです。
-- このFileMaker Goの無料化について、社内での反対はなかったのでしょうか?
エプリング:もちろん、FileMaker Goライセンスの売上がそのままなくなってしまうということを心配する声もありました。
先ほど例に挙げた大手病院グループのような形で、FileMaker Serverを1つ、FileMaker Pro Advancedを1つ、そしてFileMaker Goを1,000以上――というような導入事例を想定すると、収入面のみに注目すれば大きく目減りしたことになるのは事実です。
しかし、結果的にそうはならないと考えています。FileMaker Goを無償にすることで、既存のお客様の場合でも新しいお客様の場合でも、より多くの人にFileMakerプラットフォームを経験していただけることになるからです。
ライセンスを無料にすることで売上が落ちるというリスクはありますが、FileMakerプラットフォームの新規拡大、iOSをビジネスで展開しようと考えている企業における大きな課題を解決できるという意味では、充分にその価値があると判断しました。