5GHz帯の無線LANでは、利用できる帯域が広く、干渉する機器が少ないため、より通信品質が高い。2.4GHz帯と5GHz帯に両対応することで、より効率よく通信が行える点もメリットだ。ただし、現在auでは、スマートフォン「GALAXY SII WiMAX ISW11SC」「MOTOROLA RAZR IS12M」、タブレット「MOTOROLA XOOM Wi-Fi TBi11M」の3機種しか5GHz帯の無線LANに対応しておらず、「今夏の新製品に向けて対応機種を拡大したい」(大内氏)としている。
2つ目は通信品質の情報を集めて解析するシステムを用いて、必要な場所に効率よくau Wi-Fi SPOTを設置する。これは「携帯の3G通信が混雑して、ユーザーが遅いと感じる前に、遅いところを先読みして確実に設置していく」(大内氏)というスタンスによるもので、3Gの容量が逼迫しているエリアをメッシュ化して把握し、呼び出しが切断されたり、接続が失敗したりするデータを分析し、走行データにより実際の状況を収集。さらにユーザーからの要望を受け、これらのデータを解析することで、設置すべきエリアを決めているという。
さらに、実際の設置の際は、無線LAN基地局に「ビームフォーミング技術」を導入。これは、基地局の周辺に単に電波を発するのではなく、より指向性を持たせ、利用者のいる方向に強く電波を発射することで、店舗内全体に電波を届くようにした。
4つ目は屋外の無線LANエリア化による「ストリートセル構想」。店舗のスポット化を進めていくと、店舗外に漏れる無線LAN電波によって、例えば外を歩く人の端末が自動的に無線LANに接続してしまい、弱い無線LAN電波によって通信ができなくなるというデメリットがある。これを解消するために、店舗外の道路自体を無線LANエリア化し、店舗という点ではなく、道という線をエリア化するという試みだ。
すでに東京・原宿の竹下通り、八重洲地下街、名古屋市セントラルパーク地下街をエリア化。該当エリアを歩いている間は、常に無線LANに安定して接続するため、弱い電波によって通信ができなくなるということがなくなる。
なお、au Wi-Fi SPOTのWAN側回線はUQコミニュケーションズのUQ WiMAXを使っている場所もあるが、必要に応じて順次光回線などの固定回線への転換も図っていく考えだという。
無線LANオンでも電池が持つように
さらにユーザーの反応を見ると、無線LAN利用時の不満として、「電池持ちに影響する」「3Gと無線LANの切り替えが面倒」「設定が面倒」「3Gと無線LANの切り替え時間がかかる」「通信品質が不安」「セキュリティが不安」といったものが挙げられたという。このうち、通信品質はこれまでの対策で解消を図り、セキュリティはWPA2/AESの採用で暗号化強度を確保。
不満点のトップだった電池持ちに関しては、これまで、3Gのみでの待受に比べて3Gと無線LANの双方を待ち受けていると、半分程度の待受時間になっていた。これは無線LANの検索のために端末から電波が発信されるためで、この頻度を減らすことで、バッテリへの影響を減少させ、これまでの電池持ちが約2倍になり、3Gのみの待受時間と同等まで改善するという。
5月以降、アプリレベルでのアップデートで既存機種でも対応を行い、夏以降の新機種に関しては、端末レベルでの対応も追加していく。既存機種でもアップデートでバッテリ駆動時間が延長できるが、新機種ではさらに効果が高くなるそうだ。ちなみに、こうした技術はau向け端末だけでなく、他事業者に端末を供給しているメーカーであれば、そのまま他事業者向けでも利用できるそうだ。
3Gと無線LANの切り替えや設定の問題に関しては、端末の通信状態を検出して3Gと無線LANを自動で切り替える技術をすでにAndroidスマートフォンには導入。特に無線LANスポットのエリアの端で弱い無線LAN電波を捕まえているような「どっちつかずの状態」(大内氏)に対して、電波が弱くなると無線LANから自動切断することで、いちいちユーザーが設定しなくても快適に使えるようにしている。設定に関しては専用接続ツールの「au Wi-Fi接続ツール」を用意し、特別な設定をしなくてもすぐに利用できるようにした。
3Gから無線LAN、無線LANから3Gへ接続が切り替わる場合に必要だった時間も、無線LAN接続シーケンスの最適化やau Wi-Fi接続ツールのアプリを改善することで、これを従来の半分以下にまで削減。5月以降のアップデートで対応する。
3Gの品質向上も
3G通信に関しても通信品質の向上に向けた取り組みを継続。KDDIは、周波数再編によってそれまで使用していた旧800MHz帯から新800MHz帯への移行を2006年から続けており、これに2GHz帯を加えた周波数帯でエリア構築を行ってきた。「通信品質の劣化を防止し、品質を向上させることを最大の目標」(技術統括本部執行役員 西山治男氏)として、2011年度には「基本的な構築は終わった」(西山氏)という。今後は、さらなる品質向上が目標だ。