先にも書いた通り、店主である山越氏は、元々酒中心のライターとして活躍していた。しかし2年程前、今後は「飲み屋をやりたい」と考えるようになり、日本酒を一番おいしく飲める業態を考え、そば屋を選択した。
まずは料理を勉強するため、自家製粉のそばに加え野菜料理にも定評のある東京・麻布にあるそば店「蕎麦 たじま」で1年間修業。その後そば・うどん教室の「一茶庵」で1カ月かけてそば打ちとそば文化について学んだ。その際教室で知り合った人から、移転予定で現店舗の後継者を探しているというそば店「菊谷」についての情報を教えてもらう。ここで「菊谷」店主の菊谷修氏と出会ったことで、開業へ加速度的に進んでいくことになった。
予想外のスピード出店
当初は3年程かけて開業の準備をするつもりだったが、これまでに目星をつけていたそばの仕入れ先を訪ねまわり、2週間程で段取りを付け、菊谷氏に店舗引き受けの返事をするというスピード展開となった。昨年3月末までは「菊谷」として菊谷氏が現在の野饗がある場所で営業しており、山越氏も店に入って製粉からそばを勉強させてもらった。そして4月1日に店を引き継ぎ、4月2日、山越氏34歳のときに野饗をオープンさせたのである。
店舗を丸ごと譲ってもらうという恵まれた出発ながら、調理器具や器類、酒類の仕入れなどの出費がある。石臼が65万円、そば用のざるが30万円など、こだわりの部分にはしっかり資金をかけたため、初期費用は400~500万円がかかった。修業時代より貯金をしていたが、それだけでは足りない。そこで総資金の半分程は、地元・練馬区による練馬区出店希望者向けの「創業支援貸付」を受け、その紹介で地元の地方銀行より融資を受けた。
現在は客単価は昼1,550円、夜2,900円で、当初の計画通りに酒と共にそばを楽しんでくれるお客が中心だ。山越氏のあくなき探究心で、技術や道具、そばの産地、打ち方まですべてにおいて進化を続けている野饗。はやくもそば好きの間で話題となり、休日には評判をききつけた目的客が集まっている。