鈴与シンワートは2月24日、28日の2日間、「S-PAYCIAL人事労務セミナー2012春 キーマンが語る-成功のための人材・組織マネジメント-」と題するセミナーを東京(24日)、大阪(28日)で開催した。
今回、「S-PAYCIAL人事労務セミナー2012春」では、『いまさら人に聞けない 労務トラブル防止の実務』の著者である川島孝一氏が講演。また、同社の顧客であるネットワンシステムズ(東京会場)、村本建設(大阪会場)が招かれ、同社のサービスを用いた、人材・組織マネジメントに関する課題対応や効果、今後の戦略への適用に関する解説も行われた。加えて、大阪会場では、鈴与シンワートのHR関連サービスであるパッケージソリューション「STAFFBRAIN(スタッフブレイン)」と人事給与業務アウトソーシング「S-PAYCIAL(エスペイシャル)」について、サービス選定のポイントという切り口から紹介を行っている。
以下、当日の模様を簡単にお伝えしよう。
執筆者紹介
正林俊介(MASABAYASHI Shunsuke) - 鈴与シンワート 企画推進室 事業企画推進
経営基盤パッケージ「SuperStream」や、人事給与就業パッケージ「POSITIVE」「STAFFBRAIN」のソリューション営業を2003年から8年間担当。2006年からは人事給与業務アウトソーシング「S-PAYCIAL」の立ち上げにも参画し、サービス設計、業務設計、プラットフォーム設計、マーケティング、営業活動まで幅広く事業マネジメントを行ってきた。現在は、事業企画部門にてHRコンサルティングや自社の事業企画、経営企画、マーケティングなど幅広く業務に従事。幅広いキャリアと経験、現場志向での取り組みに定評がある。
日本の人事部、ITメディア オルタナティブ・ブログでコラムを執筆中。
労務視点から見た規定統合の勘どころ
最初のセッションは、「労務トラブル」がテーマ。社会保険労務士である川島孝一氏が、労務トラブルの具体的ケースに対する対応策を、判例や事例を交えて講演を行った。
社会保険労務士 川島孝一氏 |
川島氏は、まず近年増加傾向にある労使紛争についてデータを用いて説明した。氏は、「インターネット等のITインフラの普及により、労働者個人が労働に対して情報を容易に得られるようになったことで、労働者としての権利意識が高くなっている」と指摘。企業側に労働者側の意識変革が起こっていることを認識する必要性を説いた。
労務トラブルの傾向としては、「地位確認」、すなわち管理監督者としての身分、地位の妥当性の確認が多くを占めてきているという。これは「管理監督者としての実態として地位が与えられていないとう主張から、未払い残業などの請求を求めるものがほとんどである」(川島氏)ようだ。
さらに川島氏は、このような労務トラブルのデメリットを4つのキーワードを挙げて説明する。挙げられたキーワードは「対外的信頼」「内部モチベーション」「解決に要する時間」「解決に要する金銭」。前者の2つは内外を問わず企業の感情的な要素に対する損失であり、後者の2つはコスト面での悪影響である。こうした具体例を挙げた上で氏は、「経営にとって労使トラブルを回避することが重要な命題であるとことを認識し、それに備えることが必要」と訴えた。
では、上記のような問題の"備え"としてはどのようことが求められるのか。
この点について川島氏はまず、「企業が法律、規定に則った賃金支給を当然に実施し運用すること」が大前提と説明。続けて「各社に合った労働制度の導入と管理監督者の定義と処遇への配慮がポイント」と解説する。そして、最も重要なことは「日々の記録」と「誠意を持って対応する」ことだと力説した。
事業再編、組織統廃合に潜む労務リスク
川島氏の講演では、事業再編や組織統廃合、M&Aなどが多く進む現在、その中で発生する規定統合や労働契約変更についてのリスクとその対策についても触れられた。
氏はまず、事業再編の形態やM&Aの手法を下記のように分類した。
- 合併
- 買収・資本参加・出資拡大
- 事業譲渡
- 会社分割
その上で、労働契約の権利義務の形態を下記のように分類して説明を行った。
- 出向
- 転籍
- 承継
そして川島氏は、このふたつの分類の関係性を整理し、ケース毎に、労働者への同意必要性の有無や、労働契約と労働条件の取り扱いを解説した。
これら規定統合や条件変更については、「基本的に労働者との同意が必要であり、必要が無い場合においても労働契約承継法と改正商法の並行した手続きが求められる」という。しかし、川島氏がそれ以上に強く強調したのは従業員への配慮。「手続きを行うことよりも、働く従業員のパーソナルな部分への配慮が最も重要である」と述べ、人との対応の重要性を説いた。
公演の中で川島氏は「労働紛争によって企業が生み出すものは何も無い」と語った。その言葉こそが当セッションのテーマである労務トラブル対応の本質をついた表現だろう。